「昔はこの辺りも賑やかだった」と話す、老舗鮨店の大将。ここは、函館・新川町で半世紀近く続く『王将寿し』。駅前から少し離れており、観光客向けというよりは近隣の魚好きが集う街の鮨屋という雰囲気です。魅力はなんといっても鮨の美味しさ。
函館は、街全体が港のようなもの
渡島半島と函館山の間に形成された砂州に広がる都市、函館。街に入り組む函館湾に、渡島半島のリアス式海岸、太平洋に日本海、さらには津軽海峡と、個性の異なる様々な海に周囲を囲まれた函館は、水揚げされる魚介類の種類も非常に豊富です。
街には漁港が点在しており新鮮な魚が次々と市内へと運ばれてきます。魚好きには楽園といえる函館。居酒屋や食堂で豪快な刺身を食べるのはもちろんのこと、豊富な魚種を楽しめる鮨店も訪ねたいものです。
冬の函館は観光をするには厳しい気候ですが、「食」・「酒」が目的ならばベストシーズンではないでしょうか。名物のヤリイカやウニ、ホタテ、マダラやドンコ、高級魚のキンキも冬が旬。ということで雪で一面真っ白の函館にやってきました。
新川町で半世紀、歴史ある鮨店へ
外観
お酒をじっくり楽しむならば、駅から少し離れた地元の人が集う店を選びたい。ということで、吹雪く函館市内を歩くこと10分。新川町にある『王将寿し』にやってきました。
界隈は営業中の店舗が少なく、雪に包まれたモノクロの世界。とぼとぼと歩いている中で見えてくる「王将」の看板に安堵します。
ピンと張り詰めた極寒の屋外から、暖簾をくぐった瞬間、あたたかい店内に地元言葉で迎えてくれる店主の声。冬の雪国で感じるこの心の緩急がたまらなく好きです。
コートのフードや肩に積もった雪をはらってから店内へ。一見するとコンパクトなカウンターだけの店のよう。大将が立つ板場に向いたL字カウンターは8席ほど。4人テーブルが数卓というつくり。店は奥に広がっており、ちょっとした宴会もできる小上がりも完備した、比較的大きな店であることが後ほどわかりました。
乾杯はお燗酒で
カウンターは常連さんたちが集まる特等席。みなさん地元のベテランさんという雰囲気です。くずれた飲み方をしている人はおらず、パリっとしたいい雰囲気です。水産、酒類など、食品関係のファンも多いと聞きます。
さて、一息ついたところで一杯目を。まずは体を温めるべくお燗酒から。湯煎でつけた袴つきのお銚子が素敵です。銘柄は高清水。では乾杯。
品書き
寿司種で満たされたカウンターの冷蔵ショーケースが品書きそのものです。
お決まりのセットでは、おさしみ:1,100円~、並寿し:1,000円ほど。上寿し:2,000円ほど、極上寿し:3,000円ほど。いか丼:1,200円ほど、いくら丼:2,200円ほど。
お酒は、瓶ビールはサッポロ黒ラベル大瓶、お燗酒は秋田の高清水、冷酒は高清水純米生貯蔵です。
付け台に並ぶ函館・海の幸を肴に
サッポロ黒ラベル大瓶
体が温まってきたところで、瓶ビールを注文。寒くても店に入ったら飲みたくなります。北海道は都道府県別、一人あたりのビール消費量が常にトップクラスを誇る地方。その理由がわかる気がします。北極星をシンボルにした黒ラベルをいただきます。
特上寿し(2,500円ほど)
ホッキ貝、本まぐろ、ひらめ。ピンと張った歯ごたえのあるホッキ、上品ながら濃厚な甘さのひらめは、どちらも「さすが」と言えるもの。
まぐろもなかなか。津軽海峡は本まぐろの漁場として知られていますが、案外、東京の豊洲を経由するものも多いと聞きます。
食べるペースにあわせて少しずつだされる握り。続いて海老と蟹、そして数の子。
ぶり、いくら、うに。いくらは軍艦にせず、摘むとろこに海苔をあてたのが王将寿しのスタイル。ウニをはじめ、鮮度が求められるものは、どれもとびきり新鮮です。お銚子をもらって、ちびりと飲みながら握りをちょいちょいといただきます。
じゅんさいのお吸い物が〆のお椀ものとしてでてきました。出汁がよく、隅々まで腕の良さを感じます。
ガイドブックに載るような有名店ではありませんが、大都市の評判の店に引けを取らない、鮨種の良さを引き出した美味しいお鮨が楽しめます。開店は16時と早いので、早い時間から飲みたいときにもオススメしたい一軒です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 王将寿し |
住所 | 北海道函館市新川町5-6 |
営業時間 | 16:00~25:00(木定休) |
開業年 | 1970年代 |