昭和14年創業、2代目ご夫婦が暖簾を守る鶴見の老舗大衆酒場「巴屋」(ともえや)。市場仕入れ、目利きの腕を感じさせる安くて美味しい魚介類と、女将さんが手掛ける焼鳥・おでんが名物です。
旧東海道沿いの老舗酒場
川崎から横浜にかけて、京浜東北線や京急線の沿線は老舗酒場の宝庫です。
市民酒場だった歴史を持つ店、宿場町由来の古い商店街で長く続く料理店、食肉流通センターが近いからかなぜかホルモン・もつ焼きを提供する串焼き店も多数。昭和っぽく「京浜酒場ベルト」とでもネーミングしたいです。
鶴見駅周辺も、長年続く歴史ある店が数多。さらに鶴見川をこえれば老舗の角打ちがお昼からやっています。
JR鶴見駅と京急鶴見駅に挟まれた駅前の一等地。ここに巴屋もあります。渋い酒場がなぜ駅前に?と疑問に思うかもしれませんが、実はお店の前の道が「旧東海道」。鉄道の利用者が今ほど増える前から、ずっと巴屋は街道沿いで商売をされていたというわけです。
きれいな白髪に割烹着姿の凛とした女将さんと職人風のご主人が迎えてくれます。酒場ならではの温厚さと同時に、長年酔客を相手にしてきたからであろう厳格さも感じられる接客です。
焼台は女将さんのしごと。L字のカウンターの奥が厨房で、そちらがご主人の担当のよう。テーブルには長く通っているような黒帯ノンベエがいつもの時間を楽しんでいます。
鶴見区生麦には、首都圏の旺盛な飲酒需要を支えるキリンビール横浜工場があります。大正15年竣工の由緒あるビール工場ということで、近隣の老舗酒場も自然とキリンが多いのは当たり前でしょう。
キリンのレギュラーラガーの大瓶(600円)をもらって、それでは乾杯。
色の変わった短冊
品書きはだいぶ色がかわってきています。年輪を重ねた短冊に惚れ惚れしつつ、なおかつ値段が税込み表記ということに、改めて感謝したい気持ちがわいてきます。
焼台の裏まで回り込んだ短冊。よく見えませんが、さつま揚げ(350円)やポテトサラダ(300円)など、売れ筋と思われるものが隠れて出番を待っています。
鮮魚と焼鳥でお二人の料理を楽しむ
自家製のごぼう漬け(お通し200円)と、焼酎・黒霧島ロック(350円)。ちびりと飲みながら今日の注文を考えます。ご主人や常連さんがアドバイスをくれることも。
ホタルイカ(400円)
ご主人が長年の付き合いから東京中央卸売市場等の仲卸から仕入れた魚介類。当然のように旬をとらえた顔ぶれですが、昨今そういう店は減ってしまいましたね。
本日のサービス刺盛(700円)
まあ、これが大変立派でびっくり。ホタルイカが重なってしまったことはご愛嬌。肉厚でハリのあるとり貝に、中トロまぐろ、カンパチという内容です。
歴史ある酒場のお刺身は上品気味…そんなことありません。2千円ちょっとで飲む気持ちで訪ねてみれは、モノがよくて盛りもいいものを食べさせてくれる店がたくさんあります。
刺身は単品でも、とり貝(400円)、いか刺し(450円)、まぐろ(500円)など手頃です。
焼鳥
刺身や一品料理の多くはご主人の担当ですが、焼鳥となると女将さんの出番。カウンターのほぼ中央に設けられた焼鳥台に立ち、「さぁ、焼きますよ」という表情の女将さんがとても素敵です。
鳥つくね(180円)とねぎま(130円)。俵型のだんごにタレを重ねるように焼き上げるので、ちょっぴり焦げがでるものの、香ばしく深い味が実に美味しいです。
旨味たっぷり!豚のにんにく生姜炒め。飲んでくるとこういう料理がますます美味しくなります。もちろん、お酒飲み向きの濃い味仕様。
ナカ多し!ホッピー
お酒のラインアップはそれほど多くはなく、日本酒、ビール、シークァーサーハイ(430円)、角ハイボール(400円)など。あれこれ飲みたい人には物足りないかもしれませんが、どっしり構えて飲むならばこれで十分という人も多そうです。
どっしりといえば、ホッピー(セット400円)のジョッキがたいへんに重たいです。ホッピー公式ジョッキに描かれた小さな星マークの目安を関係なし、ロゴの位置まで注がれた甲類焼酎、いわゆる「ナカ」。
ホッピーは通常のもの一種類のみ。注いでみなくてもわかりますが、ソト(ホッピーそのもの)のほうがナカより少ないのです。
ナカをおかわりしても、また同じくらい注がれて運ばれます。順調にソトを注ぎ入れていけば3杯分になるものの、そんなに飲んだら一日が終わってしまいそうです。適度にソトを継ぎ足して…。それでも濃い。ぜひ適正飲酒を心がけたいものです。
今回は注文しませんでしたが、おでん(夏季はおやすみ)も人気。鶴見駅すぐ、老舗の風情と豪快な盛り付けが楽しい一軒です。
ごちそうさま。
市民酒場について
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 大衆酒場 巴屋(ともえや) |
住所 | 神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央1-5-9 |
営業時間 | 営業時間 17:00~22:00 定休日 土曜日、日曜日、祝日 |
開業年 | 1939年 |