久留米駅(福岡県)からJR久大本線で約1時間。ここは山紫水明の里「水郷ひた」。街の中央を水量豊富な三隈川(筑後川)が流れ、それを囲むように古くからの温泉旅館が立ち並ぶ景勝地です。
江戸時代、天領だったこの地は経済的に豊かで、人の交流によって各地の文化を取り入れ発展を遂げてきました。これにより、久大本線沿いの温泉地「由布院」とは異なった特色として「九州の小京都」と呼ばれています。
食文化も独特で、鮎、鰻、おいかわ、すっぽんなどの川魚料理のほかに、鶏鍋・鶏刺しといった鶏料理が古くから親しまれています。今日はここ日田から、地元密着の大衆食堂で鶏料理を楽しませてくれる店「食事の店そのだ」をご紹介します。
水郷の郷土料理に出会う
福岡から特急「ゆふいんの森」号で約90分。日田の玄関口、JR日田駅。
日田の豆田町商店街は、御用達商人たちの商家や蔵屋敷があった場所で、現在も当時の雰囲気を色濃く残しています。
「そのだ」は、日田駅と豆田町のほぼ中間に位置し、地元客に長く親しまれてきた食堂です。店の看板には、日田焼そばやちゃんぽんなど、庶民的な料理が掲げられています。
土間に小上がり、テーブルを配置した1階は、まさしく食堂。親子二代で営む家族商売で、親戚の家に上がらせてもらったような家庭的な雰囲気に浸れます。
二階は「そのだ」の鶏料理のファンになった人が全国各地から訪れる、要予約のお座敷です。大衆食堂であり、料理屋でもある。まとまりがないようで、これがまた非常に居心地がよいのです。
九州初のビール工場となった門司の帝国麦酒の系譜にあるサッポロビール九州日田工場は、お店から数キロの場所。「そのだ」のビールも日田うまれの黒ラベルです。それでは乾杯。
つぶしたての軍鶏刺身が絶品
軍鶏刺身(500円ほど)。お店のこだわりは、1歳半から2歳までの雄の軍鶏を抜群の鮮度で提供すること。
もも肉とむね肉の味の違いが楽しめます。軽く柚子胡椒と九州らしい甘醤油につけてひとくち。口の温度でふんわりとした脂が溶け広がり、あっさりとしつつも印象的なコクを感じる旨味があります。
江戸時代から、鶏刺しはおめでたい席での定番料理だったと言われるこの地域。おろしたての鶏刺しを食べる機会は今では貴重になっています。
軍鶏のがめ煮や自然薯など滋味あふれる料理
鶏の足は、醤油とお酒に煮て「軍鶏のがめ煮」に。ビールはもちろんですが、焼酎のお湯割りとの相性が抜群に良いです。
冬場は要予約でとらふぐ料理も人気なのだとご主人。ふぐのひれ酒などはコースでなくても用意できることもあるそうです。
通しで営業されているので、昼食時を過ぎた平日午後2時ごろに伺いましたが、こんな時間からふぐひれ酒が味わえるとは、なんとも贅沢なひとときです。
軍鶏やふぐなどの贅沢な料理だけでなく、ちょっとしたおつまみや食堂料理も丁寧につくっています。とくにゴマトーフは秀逸。自家製のゆず味噌をさっと垂らしていただきます。
〆は自然薯の味噌汁。
観光向けでも、派手な魅せ方があるわけでもありません。土間の小上がりで、地元のお祝い料理を丁寧に食べさせてくれるだけです。ですが、こういうお店こそ旅先の思い出になるものだと思います。
ごちそうさま。
※定食・丼もの以外は念の為予約をされることをオススメします。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 食事の店そのだ(そのだ食堂) |
住所 | 大分県日田市港町5-29 |
営業時間 | 【営業時間】11:00~20:00【休み】不定休 |
※地域の文化・風習や、飲食店の意図を尊重し鶏の生食を紹介させて頂きました。