36年間ありがとう 蔵元居酒屋 清龍 歌舞伎町店。新宿で飲む人の拠り所でした

36年間ありがとう 蔵元居酒屋 清龍 歌舞伎町店。新宿で飲む人の拠り所でした

学生時代の友人と他愛もない話を愉しむ飲み会は、いつも新宿・歌舞伎町の清龍でした。また、新宿西口の取引先と打ち合わせを終えたあと、ノーリターンで清龍に直行したものです。オフ会をしたことも、家族やその仲間たちと忘年会を開いたこともありました。

新宿区役所通り沿いの清龍には、たくさんの想い出がつまっています。そんな清龍が、まさか閉店することになるなんて――

2020年8月21日(金)、歌舞伎町の清龍が閉店します。コロナ禍で多くの飲食店が暖簾を畳む中、まさか清龍までも…。

 

コロナ禍からはや半年。いえ、やっと半年というべきでしょうか。世の中の多くのことが、当たり前ではなくなりました。春らしいこと、夏らしいことをせず、今も耐える日々が続いています。「夜の街」に対するイメージ、そしてその象徴的な存在の新宿歌舞伎町は、多くの人々に注目されるようになりました。

 

歌舞伎町の清龍は、他の居酒屋より少し早い3時頃から営業を始めます。それに合わせて、新宿の主のような方たちがラフな格好でやってきて、店長さんにいつものお酒と日替わりの刺身を注文します。清龍も店舗数こそすくないもののチェーン店。ですが、歌舞伎町の清龍のムードはいわゆるチェーン店のそれではありませんでした。

 

店員さんと常連さんの距離が近く、一人客同士顔なじみで、時間とともに界隈に暮らすご隠居さんたちの井戸端会議の場になっていきます。

 

しばらくすると、ゴールデン街などで店をやっている方が寝起きのような表情で暖簾をくぐってきます。「おはよ、眠そうね」なんて会話をしながら。

歌舞伎町やゴールデン街は、ホストとホステスだけの街ではありませんし、スナックや小料理屋などの商売をする人もたくさんいます。清龍はこの界隈で働き、遊び、消費をする人たちの坩堝のような場所。みんな立場は違えど、なんだかんだでこのまちの雰囲気が好きな人が集まり、遠すぎず近すぎず、それでも意気投合していくようなコミュニティがありました。

 

地域の鎮守様、花園神社の酉の市が開かれる日は、店先で生ビールを売っています。

 

清龍は、「蔵元居酒屋」の冠の通り、酒蔵の系列店です。埼玉県蓮田にある1865年創業の「清龍酒造」の直売居酒屋として、都内を中心に展開しています。

ここ数年は、三田店、新橋店と閉店があったものの、神田店はリニューアルするなど動きのある清龍。人気の秘訣は、そのチェーン店らしくない雰囲気と、なにより毎日でも通える良心価格。日本酒や酎ハイが200円台で飲めます。食事も都心部とは思えないほどリーズナブル。

 

高田馬場や池袋などで学生生活を過ごされた方の中には、清龍には良い思い出も、苦い思い出もあるという方は多いのではないでしょうか。

 

歌舞伎町はかつて大きな沼地でした。それを今に残す区役所通りの緩やかな傾斜。たくさんの通行人をかき分けて、ときにはキャッチの横をすり抜けて、目的の清龍へて早足で駆け込んだものです。

入ってすぐ右側はお一人様用のカウンター席。常連さんたちの特等席です。

 

入って左側はテーブル席。奥にちょっとした個室と、板間の宴会スペースがあります。

 

忘年会の時期だけでなく、週末だって予約必須。大変な人気店でした。

そして、新宿に集まるありとあらゆる趣味人達の集いの場として、個性豊かな客が店を埋め尽くしていました。こちらでは演劇話、隣はコントのネタづくり、向こうは駆け出しのミュージシャン、右のお兄さんたちはゲームのオフ会。

 

いまでこそ、全店で瓶ビールの取り扱いはありませんが、少し前まではビンも選べました。そして、お正月になれば賀春ラベルのビールがでたり、お年賀として清龍自慢の冷酒が振る舞われたものです。毎年の楽しみだったおせち料理(500円)も、いい思い出です。

花園神社にお参りしたら、だいたい清龍にそのままスライドしたものです。

 

清龍は、なぜか炭水化物をよく食べました。清龍のチャーハンに一時期はまって、これが今、筆者の「チャーハンは酒の肴説」の始まりでした。

 

清龍歌舞伎町店閉店を惜しむ会は、様々なグループで行われており、私も酒場好きのグループに混ぜていただいてきました。ノーマルな酎ハイもありますが、清龍といえば「サケハイ」ですね!

日本酒のソーダ割り、昔は200円くらいでした。いまでも250円と安いです。乾杯!

普通酒のソーダ割りは、酎ハイの風味づけに似た独特のクセがあり、これがあとをひきます。合同酒精の甲類を使っているので、グラスは清龍好きではおなじみのワリッカ。

 

何度も通う人は折りたたみの大きなグランドメニューを開かずに、190円の日本酒と、今日の日替わり刺身を着席と同時にオーダーするなんてことも。300円前後でマグロやブリ、タコなど色々でました。ときどき岩牡蠣などびっくりするような食材が低価格で並ぶこともありました。

 

みんな大好きニシンの塩焼き(430円)。いつも誰かは頼んでいました。

 

思い出の炭水化物。学生時代、新社会人時代に清龍を使っていたからでしょうか、皆さん、やはり清龍の炭水化物はお好きなようで。

本格的なパリパリのピザ(780円)、歌舞伎町店創業時からあるという昭和のナポリタン(450円)などを注文。

懐かしいな、好きだったな…。各々記憶の味を楽しみますが、清龍は歌舞伎町店が閉店するだけで、池袋や吉祥寺、上野(御徒町)、高田馬場などは引き続き営業されますから、食べられなくなるわけではないのですけどね。

 

お酒の飲み方を鍛えてもらった場所(※飲酒量ではなく、酒の場の楽しみ方)。なくなるのは切なく寂しい限りです。近くに清龍に変わる場所はどこがあるでしょうか。思い出横丁でお昼から飲んで、夜はゴールデン街。その間のワンクッションに挟んで利用していた方は、少なくないはずです。

開店から36年目。大きな社会の変化を、身近で好きなお店の閉店で感じさせられた出来事です。

清龍さん、今までありがとうございました。ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

居酒屋清龍ホームページ
https://www.seiryu-syuzou.co.jp/sakagura/brand/seiryu.html