[列車で飲みたい] プラハ~ベルリン 正統派食堂車で自慢のビールを満喫

[列車で飲みたい] プラハ~ベルリン 正統派食堂車で自慢のビールを満喫

2019年11月23日

旅にお酒はつきもの。訪れた先々で食べるご当地の料理をつまみながら土地のお酒を飲むのは格別です。また、旅の交通手段は飛行機、自動車、バスと様々あれど、じっくりとお酒を飲みながら流れ行く大地を眺められるのは鉄道だけ。お酒飲みにとって鉄道は好相性の移動手段です。

 

今回は、一人あたりのビール消費量世界一のチェコの首都・プラハから、ビール生産量ヨーロッパNo.1の国・ドイツはベルリンを結ぶ、勝手に命名「ビールエクスプレス」に乗って、食堂車の様子をお届けしようと思います。それでは、動くビアホールへご案内~。

 

ここが旅の始まり。プラハの玄関口、プラハ本駅。ドイツのミュンヘンやオーストリアのウィーン、ポーランド方面へ向かう国際特急が多く発着するチェコ最大の鉄道駅です。

 

駅構内にあるピアノは自由に弾けて、演奏する人もそれを鑑賞する人も多数。そう、ここは作曲家 アントニン・ドヴォルザークなど多くの作曲家、演奏家を輩出した音楽の都でもあります。旅の途中のヴァイオリニストが即興でピアノに合わせて共演されていたりと、列車の時刻まで楽しませていただきました。

 

ドーム状の高い天井を持つ、アール・ヌーヴォー風の芸術的な駅舎。1871年にオーストリア帝国によって建設され、ときの皇帝の名から「皇帝フランツ・ヨーゼフ駅」として開業しています。

 

かまぼこ型の大屋根ドームに包まれた4つのプラットホームからは、東欧・西欧の各都市に向けて次々と列車が発車しています。ベルリンに向かうビールエクスプレス、ではなくて、正式名称ユーロシティーエクスプレス(EC)が、ヤードからソロソロと入線。大きな荷物を持ったお客さんたちが次々の乗り込みます。

 

日本では見なくなった機関車が牽引する列車で、本線用の大型機関車が手際よく連結されました。EC174列車は、チェコを10時21分に発車し、約4時間30分かけてベルリンへと向かいます。

 

水色の車両はチェコ国有鉄道(CD | České dráhy)の客車。このまま隣国ドイツまでチェコの車両が直通します。

 

写真は食堂車。これが今日の目的の”お店”です。

 

列車は座席指定が基本。食堂車の隣の車両を予約し、まずは着席。しばらくすると定刻となり発車。ゆっくりと確実に加速する列車。車窓は世界遺産に登録されているチェコ旧市街が流れます。ロールプレイングゲームや指輪物語に出てくるような景色は、現実感がなくて不思議な気分。景色に魅了されると同時に、買い込んできたビットブルガー(Bitburger Brauerei)が一層美味しく感じます。

アメリカなど一部の国では座席での飲酒が禁止されていますが、ドイツ、チェコはともにOK。ビール大好き民でいっぱいの車内は、あちこちから「カシュッ」とプルトップを開ける音が聞こえてきます。

 

列車はモルダウ川(チェコではVltava : ヴルタヴァ川)沿いをひたすら北上します。ズデーテン山脈へ向けて、山の間を縫うように流れるモルダウ川。渓谷の合間の中小の町を経由しながら、列車は順調に走ります。

子供の頃に合唱した「モルダウ」(スメタナ)を思い出しながら、そろそろいい頃合いかなと食堂車へ。進行方向右側は、モルダウの美しい流れを鑑賞できる特等席です。

 

鉄道が盛んなヨーロッパでも縮小傾向で料理の簡略化が進む食堂車。それでも、この列車は往年のフルサービスを提供しています。ウエイターがいて、コックも乗務しています。

 

何ページもある立派なメニュー。支払いはチェコの貨幣「コルナ」とヨーロッパ通貨のユーロが支払い可能です。5ユーロから12ユーロほどと食堂車としては大変リーズナブル。

 

料理はドイツ、チェコの定番を揃えた内容です。

 

白い蒸しパン「クネドリーキ(Knedlíky)」を牛フィレに添えたスヴィーチコヴァー(Svíčková na smetaně)€10.50はチェコの代表的な料理。ドイツ版のとんかつ、豚ではありませんが子牛のカツレツ「シュニッツェル」などもあり、この車内だけでも十分に旅グルメが満喫できそうです。

 

vepřová pečeněは豚ロースのソテー。隣のマダムはサンドイッチを食べているご主人をそっちのけで、赤ワイン片手に豚ロースに夢中。食べたいものを食べて飲むが一番よ!という表情が素敵。

 

なんとこの食堂車。ドラフトビールが用意されています。さすがチェコ国有鉄道。ピルゼン生まれ、ピルスナービールの原点「ピルスナーウルケル」が樽生です。神話に出てくる醸造の王の名をつけたgambrinus originalも置いています。

そして値段をよく見てください。二段表記になっていて、一段目は「ヒッピーアワー」の文字。そう、この食堂車、列車なのにハッピーアワーが設定されています。通常€3.30のウルケル、それでも十分に安いのですが、ハッピーアワーはなんと€1.40なんです。水より安いとはよく言ったもので、まさにそのとおり。

 

ビール大国チェコですが、ワインも作っています。フランスの銘柄が少しと、多くのチェコワインが揃えられていて、こちらもぜひ味わってみたいところ。

 

旅とお酒が好きならば、この環境は最高に素晴らしいはず。もう取材を忘れて思わず、ウエイターさんから受け取ってそのままジョッキを口に運びそうになったほど。

では、ピルスナーウルケルで乾杯!

 

流れる車窓にはモルダウ、手元には水より安い、そしてフレッシュで爽やかなピルスナー。

 

プラハを発車して2時間ほど。居酒屋で過ごすと時間の流れが早く感じるのと同様に、食堂車でも時の流れは車窓とともにあっという間に過ぎていきます。お昼時なので、ライスも食べられるボヘミアの郷土料理「hovezi spanelsky ptacek」を。

 

hoveziは牛肉のこと。牛肉で玉子、ソーセージ、ベーコン、きゅうりを巻いたもので、バターや玉ねぎ、ピクルスなどを使ったソースにつけて食べます。ライスはあくまで付け合せで、メインはこのロールローストビーフとも言えるもの。「料理名にスペインが入っているけど、スペインは関係ないよ」と英語でウエイターさん。

 

これがなかなかどうして、大変に美味。ビーフバターライスは小腹を満たしてくれるし、ビールも進ませます。

 

ズデーテン山脈をモルダウ川が切り開いた渓谷の中を、列車は速度を落として川の右へ左へ。お客さんに混じって、チェコ国有鉄道の乗務員もお昼ごはん。さすがにビールは飲まないみたいですが、海外の食堂車は乗務員の休憩所も兼ねていることが多いですね。ビールは美味いかい?という表情で車掌さんににっこりされてしまいました。

 

ドイツとの国境に近い町、ウースチー・ナド・ラベム。川幅が広がり、日本の地方にあるような穏やかな川沿いの町並みが見えてきました。ここから列車を乗り換えて西へ10キロほどいくとテプリツェ。ゲーテとベートーヴェンが出会った温泉街があります。

 

ハッピーアワーで大変にハッピー。ビールを幾度となくおかわりをし、ウエイターさんと仲良くなったところで、ワインのおすすめを教わりました。銘柄はZNOVIN ZNOJMO。ウエイターさんの生まれと同じ、モラヴィア地方(ドイツ語だとメーレン)のワインです。

 

リースリングワインを傾けながらほろ酔いで楽しむ車窓。山脈を抜けた列車は時速180キロほどで開けた丘陵地を快走。すでに国境を越えてドイツ連邦内に入っています。車掌さんたちはDB(ドイツ鉄道)にバトンタッチ。山間の小さな駅で機関車も付け変わったようです。

 

モルダウ川が合流するエルベ川。そのエルベ川沿いの都市で、人口50万人都市のドレスデンに到着。さらに速度を上げてどこまでも続く大麦畑を眺めていると、列車はいよいよドイツの首都・ベルリンへと入ります。

 

東西ベルリンの統合後、都市機能が大きく改良されきたベルリン。シュプレー川沿い、政府機関にも近い場所で2006年に新設されたベルリンのターミナル「ベルリン中央駅」に列車はゆっくり、ゆっくりと入線し、定刻の到着となりました。ホームは高架と地下の二段に分かれていて、IC174は地下のプラットホームに入りました。

 

工業国ドイツらしいメカメカしく直線を多用したデザインの駅。メタルとガラスの調和が美しく、ちょっぴり寒い印象もなんのその。駅ナカにはもちろんビールレストランにビアスタンドに、売店でも巨大なビール特設コーナーが待ち構え、みんなビールを笑顔で傾けています。さすが、国民一人あたりのビール消費量が日本の2倍以上ある国。

 

ビールエクスプレスと勝手に名付けましたが、ビールの国同士をつなぐユーロシティーエクスプレスはビール好きにぜひ乗ってほしい列車です。行程の約半分を食堂車で過ごしてしまいました。単なる移動手段ではなくて、これもまた旅の目的になります。

ごちそうさま。

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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

DB | ドイツ鉄道
https://www.deutschebahn.com/

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