かつて村上藩の城下町として栄えた村上市。約6万人が暮らす、新潟県では人口で8位の街です。
村上といえば、鮭の話題をせずにはいられません。平安時代にはすでに鮭が都に献上されていたという記録があるほど。江戸時代は村上藩の貴重な財源にもなったそうです。今も秋から冬にかけては街中に塩引き鮭が吊るされ、ずらりと鮭が逆さに干されている様子が楽しめます。
そして、もうひとつのサケが、「酒」。米どころ村上でつくられた越淡麗などの米を原料に、村上市に蔵を構える老舗の造り酒屋、大洋盛の大洋酒造と、〆張鶴の宮尾酒造の2社が全国区なお酒を造っています。
鮭と酒と魚の村上は、一度は飲みに訪ねてほしい素敵な街。酒場を尋ねるならば「大衆割烹 味作」はいかがでしょう。
村上へは新潟駅からJR羽越本線の特急「いなほ」号でおよそ50分。春は里山を写し、夏は青々稲が育ち、秋は黄金色に輝く田園地帯を、列車は軽快に走り抜けます。
村上駅に到着。駅には地元酒蔵2社の菰樽が飾られ、列車を降りたその瞬間からお酒が欲しくなります。
城下町であり、港町であり、瀬波温泉の玄関口として湯の町でもある村上。地方都市に旅したときに、”あるといいな”がコンパクトにまとまっている印象です。歴史ある町で歴史ある庄屋の建物が残され、また日本で唯一の鮭の博物館「イヨボヤ会館」などがみどころで、循環バスで巡ることが出来ます。お酒好きには、要予約で大洋酒造の酒蔵見学もオススメです。
おまたせしました。味作へ向かいましょう。JR村上駅前の広場から徒歩1分ほどで、冬の荒天であっても、駅から苦労せずに立ち寄れる場所です。
親子二代と女将さんの、家族で営む老舗の飲み屋。素朴な雰囲気ながら、「いらっしゃい」と、とても温かく迎えてくれる素敵なお店です。
一人、二人で楽しめる厨房に向いたカウンターと、小上がり、座敷と揃うつくりで、昼食営業では地元で働く人々で満員に近い賑わいとなることもある、村上の人気店です。
ぶらりと立ち寄って単品で頼むもよし、だいたい予算を伝えて良いものづくしで献立を立ててもらうもよし。一人で単品を頼むとそれぞれの量が多くていろいろ摘めなくなってしまうので、取材時は適当に3~4,000円ほどでお任せしました。
人気店のため、まれに地元グループや企業の宴会で貸し切りになることもあるので、遠方から目指す場合は念の為予約をされたほうが良さそうです。
村上・岩船港などで水揚げされた魚介類がずらりと並ぶ日替わりメニュー。時期によって顔ぶれは大きく変化します。船ベタ(タマガンゾウビラメ)など、地元で食べられている珍しい魚も混ざっているので、メニューを眺めて、これはどんな魚でしょうかと質問して、そんなやり取りもまた楽しいです。
山形県に隣接する村上は、東北寄りの魚も加わり「生ニシン」や「ハタハタ」なども顔を出します。
なにはともあれ、ビールをもらって始めたい!アサヒスーパードライの大きな中ジョッキ(650円)で、さぁ乾杯!
瓶ビール大瓶(680円)では、アサヒスーパードライのほかキリン一番搾りも用意されてます。酎ハイ、ハイボール、芋焼酎(黒霧島)なども用意はありますが、お店の人も飲みに来る人も、何も言わなければ日本酒固定が当たり前の雰囲気。新潟県内の老舗酒場は、一にも二にも日本酒です。
さて、一品目はお刺身。佐渡本鮪の名でも知られる新潟県沖のクロマグロを主役に、船ベタ、ヒラメ、タイの盛り合わせです。
船ベタの刺身を、濃い口の醤油にちょんとつけて頬張れば、誰だって笑顔になること間違いありません。淡白ながら噛むと旨味がじんわり広がりお酒を誘う逸品です。
冬の日本海といえばカニ。南蛮えびもよいけれど、手頃な値段で食べられる機会があるならば、ぜひ味わっておきたいものです。運良く水揚げがあったという女ガニは、外子・内子ともにみっちり蓄え、それでいてミソや身にも旨味がつまった、なかなかの絶品です。
このあたりで、当初伝えていた予算に達していないか心配になりましたが、まだまだ出るよと、ご主人。
料理好きでお客さんを驚かすのが大好きというオーラが満ちている方です。
さぁ、ビールで喉も整えましたし、村上を訪ねた大本命、日本酒でちびりと始めましょう。まずは、女将さんのオススメでもある大洋盛<紫雲>(1合400円)を上燗で。東京では売られていない、地元向けの定番酒で、これがなかなかどうして、実に美味なのです。酒米は五百万石で精米歩合55%と贅沢な作り方をした、淡麗辛口・腰の強いお酒です。
「いま、美味しいのが焼けるからね。」と言われ楽しみにしていた焼き魚。なんとアカムツ(のどぐろ)でした。
まるくぱんぱんに肥えたアカムツ。絶妙な焼き加減で皮目はぱりっと、身は箸を当てるだけで脂が垂れ出るほどしっとりしています。割烹の名の通り、丁寧な仕事が感じられる一品。そんな素敵なアカムツの味は、いまさら語る必要はないですよね。
天然車海老の産地でもある新潟は、昔から料理屋の揚げ物の代表格として海老天があったと聞きます。そんな食文化を感じる車海老つきの今日の献立。
サクサク、ぷりっぷりに揚がった海老天を前にしたら、もっとお酒が飲みたくなるというもの。
大洋酒造の中吟生酒(300ml・1,150円)をもらってきゅっと一杯。揚げたての天ぷらと雪冷えの生酒吟醸の組み合わせを楽しみます。
シメにご用意いただいたのは「土瓶蒸し」(取材は秋のため)。関西のそれとはまた違う、地元の魚介類をいれた村上版の味です。鮮度のよい白身魚からでる旨味は爽やかでこれもまたいいものです。
さて、ここからは別の日。味作は4回ほど伺っていまして、昼食にははらこ飯で一杯というのが気に入っています。はらこ飯と地元の海苔汁、そして奥には〆張鶴1合。
村上で揚がったばかりの生鮭から取り出した、鮮度抜群のいくらを使用。粒の皮は薄く味がすぐ染み込むそうで、ご主人が編み出したタレで浅く漬け、ごはんにたっぷりかけたもの(1,600円・金額は多少変化します)。焼海苔なども地元のものにこだわるなど、土地の料理がここならば満喫できると思います。
味よし、人よし、風土よしの村上へ、皆さんもぜひ足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
さて、今夜は村上の温泉街、瀬波温泉でゆっくりくつろごうと思います。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
割烹 味作
0254-52-6230
村上市田端町9-23
11:00~14:00・17:00~23:00(不定休・だいたい営業しています)
予算3,000円~5,000円