富山・桜橋「やつはし」 標高差4000mの幸。冬の富山は大人の天国!

富山・桜橋「やつはし」 標高差4000mの幸。冬の富山は大人の天国!

日本海側で飲むのが好き。

ここには、大人が静かに酒と肴に浸る至福の時間が流れています。たとえ吹雪いていようとも、あえて訪れたい。それだけの価値を感じています。極寒の街を歩き、やっとの思いでたどり着いた酒場の暖簾は天国の入り口です。酒燗器からのぼる蒸気でぽかぽかとした空気と、女将や大将の「いらっしゃい」の声で、世界は反転します。大将、お銚子一本を!

今回ご紹介する「やつはし」は、そんな大人の幸せを満たしてくれる一軒です。

 

立山連峰を望む富山市街。日暮れが楽しみです。

 

先の北陸新幹線開業にあわせて大規模に整備が進んだ富山駅。まだ明るいので、少し街歩きで気分を高めます。

 

富山駅から富山ライトレールで結ばれる、岩瀬へ。ここはかつて北前船で栄えた港町。廻船問屋の立派な建物が現存し、歩くだけでもその地の過去を想像して楽しめます。そして、ここ岩瀬にはお酒好き必見、銘酒「満寿泉」で知られる桝田酒造店が操業中です。酒蔵見学はありませんが、大きな杉玉など外観だけでも魅力があります。

 

さあて、暮れてきました。今宵の目的のお店へ。市内電車、桜橋電停から徒歩数分の「やつはし」は、界隈でも老舗の一軒です。

 

富山湾で水揚げされた幸を、毎朝ご主人が買い付けに行き、その日の夜に提供してくれる店。入ってすぐに泳ぐのはぶりの稚魚「ふくらぎ」やカワハギ、ヒラメです。オーダーが入ると、ここからさっと網で掬うのですが、これがよく暴れます。

まな板を前にして真剣な手の動きと、それと同時にお客さんを目配りするご主人と板前さんたち。割烹ほど凝らず、街の大衆酒場より少し真面目に。いい塩梅の大衆割烹です。

 

突き出しの鱈子煮をつまみにして、まずはビールで喉を湿らしましょう。寒い日も、店に入ればビールが欲しくなります。生はアサヒで瓶はキリン。注ぎ合って、まずは乾杯!

 

ご主人、どうしましょうか。お店の方と会話しながら、単品注文を組み立てていくのはカウンターの特権です。ノドグロは塩焼きがいいなぁ。

 

煮物の「ナンダ」ってなんでしょ。名前そのものが疑問ですが、これはゲンゲの一種だそう。海岸から10キロちょっとで1,000mを越える深海がある富山湾ならではの深海魚です。

名物のシロエビは旬の夏は刺し身で、それ以外は冷凍をし、揚げ物として四季を通じて楽しめます。

 

ビールは樽生が600円、日本酒は銘酒・立山を筆頭に、もちろん岩瀬の満寿泉も用意。

 

冬の富山の魅力は、やはりこれ。しぼりたて新酒のシーズンです。さきの満寿泉の軒にかかる緑の杉玉が新酒を知らせていましたが、それをこうして中心街の飲み屋で飲めるのは、まさに酒旅の醍醐味です。

 

名物ホタルイカは沖漬けで。これで日本酒を頼まずして帰れますか。

 

ヒラメをお造りに。別添えのキモを醤油に溶かしていただきます。肉厚に包丁を入れても透けている新鮮さ。寝かした白身がいい、でも、朝どれの鮮度もとってもイイ!

 

取材時は香箱ガニ(ズワイガニのメス)もありますか、ここでは雄のズワイガニ。1/4で1,100円はあれもこれも食べたいときにちょうどいい量と価格です。

 

満寿泉をちびりと含み、その余韻にヒラメやズワイガニ。そしうしているうちに焼き上がりました。日本海の魚の王様と評判ののどぐろ(アカムツ)です。年間を通じて脂がのっているのどぐろですが、冬のそれはますます美味です。

 

3,000m級の山々が連なる立山連峰から水深1,000mの富山湾がわずかな距離にある富山。その水の恵みは、こうして日本酒・立山とのどくろになって飲み屋のカウンターに集まります。至福のひととき。

 

シメは甘エビの椀ものです。カブトだけで出汁をとっても美味しいのに、ここはまるまる数匹はいります。具にはゲンゲも加わり、地元漁師の郷土料理がシメとして楽しめました。

もっと色々お伝えしたいお酒と肴がありますが、それは訪れてからのお楽しみに、ということで。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

魚処やつはし
076-431-8284
富山県富山市桜木町6-4
18:00~22:00(日祝定休)
予算4,000円