氷見「割烹しげはま」 雪の富山湾は宝の海。ぷっくり張った鰤を肴に地酒の燗をあわせる

氷見「割烹しげはま」 雪の富山湾は宝の海。ぷっくり張った鰤を肴に地酒の燗をあわせる

冬の日本海側の気候は厳しい。ときには交通にも影響が出るほどです。吹き荒れる雪。荒れる海。

そんな過酷な条件が育む海・山の幸は、気候とは対称に上もの揃いです。寒いからこそ魚は肥えるし強くなる。寒いからこそ、風が醸造タンクを冷やして酒を美味しくする。寒い季節にこそ、ノンベエは美酒美食が揃う日本海側へ飲みに行きたいものです。

冬の富山湾の代名詞、寒鰤を求めて、日本海へ飲みに旅立ちます。

 

以前は上越新幹線から在来線の特急に乗り換える長い旅路でしたが、いまや北陸新幹線の開通で東京から富山は最速2時間8分の街に。本数も多く、快適な新型車両でひとっ走りです。

 

妙高の峠越えはトンネルでも、日本海沿いは比較的地上区間が長く、車窓には白馬・立山連峰が広がります。黒部川を渡ればじきに富山駅に到着です。

 

目指すは氷見の街。新幹線で氷見にもっとも近い停車駅は新高岡駅となりますが、あえて在来線で高岡駅を経由していくのも旅情があってよいものです。富山から高岡までは、旧北陸本線・現在のあいの風とやま鉄道で20分程度。こちらも車両が新しく快適です。

 

高岡から氷見を結ぶJR氷見線はこの通り、有磯海と呼ばれる富山湾の沿岸ぎりぎりをゆっくり走行します。全国を旅していても、なかなかこれほどの絶景車窓はありません。

 

晴れていれば、富山湾越しで遠く北アルプスも眺めにはいります。標高3,000mの山々と、深海1,000mのすり鉢状に深い富山湾。高低差4,000mの車窓です。

 

浅瀬の日差しが照らす海中では、列車内から魚の姿も確認できます。

 

ゴトゴトと進むこと30分。港町・氷見は間もなくです。

 

最近では地方でもめっきり乗車する機会が減った懐かしの列車。おひさまと油のニオイが混ざる車内に幼少の頃の旅を思い出します。

 

氷見駅に到着。乾いたカラカラというエンジン音を響かせ、列車はひとやすみ。いかにも地方の終着駅らしい質素な作りです。

 

駅前ロータリーは、観光の玄関口らしい近代的なつくり。屋根がなければ駅舎の前も雪に埋もれてしまいそうです。

 

駅前はさっそく雪に埋まっていて雪靴がないと、なかなか苦労します。筆者は父親を連れての取材旅行のため、ここからはタクシーで目的の飲み屋を目指します。氷見は港が観光の目玉。家族連れやデートで使うようなロードサイドから個室系、観光市場と様々に揃います。

 

私は当然、街の酒場。典型的な大衆割烹の佇まいが”美味しそう”な「割烹しげはま」に到着です。

 

カウンターと小上がりのつくり。昼は12時から14時まで。中休みを経て17時から夜営業となります。お昼も夜の内容を注文でき、昼酒も妥協することなく満喫しましょう。

 

ドリンク、お造り、サラダに揚げ物、焼き魚などがついた晩酌セットは地元のご隠居に人気だそう。

 

小上がりに通してもらい、分厚いコートとブーツを抜いて、ほっと一息。熱処理ビール・昭和40年代の味をいまに残すキリンクラシックラガー(大びん650円)をもらい、乾杯。

 

お昼時は食堂として機能していて、後ろでは軽く瓶ビールを飲みつつ定食を食べるグループの姿。

 

生ビールはアサヒスーパードライとドライブラック。瓶ではキリンクラシックラガー。日本酒は富山の酒・若鶴と立山で2合850円。氷見の地酒・曙の新酒を枡で飲むのも良さそうです。

 

おすすめメニューは、看板料理の鰤をはじめ鱈鍋や黒造りといった郷土料理が並びます。

 

このほか、コースの料理からお好きなものをどうぞと笑顔の女将さん。

 

お通しがわりに、まずは鰤の肝煮をもらいましょう。ほのかな苦味と濃厚なコク。醤油はほどほどで酒で煮込んだ甘みが鰤の旨味を上手に引き出しています。これだけでビールも日本酒もあっという間に杯が乾きます。

 

鰤刺身(2,500円)は、ぷくぷくと張ってコシのある食感。ハラの霜降りから赤身、背まえなど、店の厨房で一尾から開いていくからこその部位毎を楽しめます。

 

ぷりっぷりで力強く思わずどう目する味です。若鶴の燗酒を注いだ猪口を片手に箸が進みます。

 

一番の脂がのったところは刺身だけでなく、鰤しゃぶ(2,500円)でも食べておきたい。氷見の寒ブリといえば鰤しゃぶと言われるくらいの地元の定番料理です。

 

軽く湯引きの程度でお湯に潜らせてます。桜色がすっと白くなりかける直前が食べごろ。

 

おすすめの鰤しゃぶの食べ方は、鰤をポン酢には浸さず、軽くもみじおろしでポン酢の味を吸わせます。それを鰤で巻くようにすれば鰤の脂を十分に味わえ美味です。

 

照り照りに酒と砂糖で煮込んだ鰤あら(1,300円)。カブトの一部が盛られていますがこれから想像するに相当大きなものが水揚げされているようです。海の状況次第で変わるとは言え、これは氷見まで食べに来た甲斐があるというもの。目玉も生臭さは皆無で、まさに骨の髄までしゃぶりたい。

 

14時はラストオーダーの時間だそうで、少し長く過ごさせてもらい、若鶴や曙をしっかり飲んでいい気分。寒い季節の日本海は、厳しい条件のぶんだけ美味しい価値も高まります。

春が来る前に一度は日本海の冬を体験してみてはいかがでしょう。

美味しい酒と大将自慢の肴、優しい女将さんの接客もあたたかくほっこりした時間を過ごせました。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

割烹しげはま
0766-72-0114
富山県氷見市丸の内2-18
12:00~14:00 17:00~22:00(木定休)
予算3,600円