西武池袋線の沿線は、メディアで取り上げられていないけど地元の方たちで大人気、そんな地域密着の名酒場の宝庫です。保谷駅から徒歩3分ほど、やきとりの「丸越」も地元に愛され続けて半世紀近い老舗です。
酒は天下の太平山。縄のれんと白看板だけのびしっとした店構え。17時の開店に合わせて続々と常連さんが集い、暮れた頃には中から賑やかな笑い声が聞こえてきます。
最近は個人系・大手系を含め飲み屋の新店が多い保谷。以前よりも保谷の夜は賑やかに感じます。
丸越は駅前の飲み屋街から少し離れた場所。近くにある踏切を頻繁に行き交う西武線のリズムがBGMです。
昔ながらの渋い佇まい。年輪が刻まれていながらも店内はとても清潔感があり、昭和の勢いをそのまま伝える風情。お客さんと店員さんの会話や串の焼ける音が空間を包んでいます。
マスターは忙しくても笑顔を絶やさない方。とても楽しそうにテキパキと調理されています。家族経営のお店、皆さんの阿吽の呼吸も店の雰囲気を明るくしています。
ビールはサッポロ、日本酒は秋田の太平山、カウンターで飲む常連さんには酎ハイ類が人気。
焼酎も種類が豊富。人吉の繊月や黒糖焼酎に泡盛となかなかの通好み。
ここの生ビールは状態抜群。可愛いコースターに使い込まれたビールジョッキ。昔ながらの500mlサイズに美しく美味しい黒ラベル中生(540円)で乾杯!
やきとんは100円から。やきとりも一通り揃うほか、カシラヒモなどあまり見かけない部位もあります。
日替わりのおすすめには、これに加え「コメカミヒモ」や「アゴ串」などが並びます。やきとりを看板に掲げ、長きに渡り地元の人に愛されてきた銘店らしい力強い顔ぶれです。
変わり串も豊富で、何度通っても食べたい料理が尽きません。一品料理も加熱するものはホイル焼きが基本で、マスターが焼鳥台の横で次々と注文をこなしています。
お通しがないお店。スピードメニューは大根サラダがおすすめ。通常の注文だとかなりボリュームがありますので、取材時は一人でしたので女将さんが気を利かせてくださり、ハーフで提供。それでもかなり山盛りです。シャキシャキの大根にたっぷりの鰹節。醤油ベースのサラダ油のドレッシングでビールのお供としてもよく合います。
せせり、シロなどを注文。冷蔵庫で生の状態で用意されているフレッシュな串。これだけ種類が多いと下ごしらえや売り切めための管理も大変そう。ですがそんな実直さもまた魅力です。
ぷりっとしていても強いクセはなく、濃厚な旨味がお酒とよく合うシロ。タレはやや辛めです。
串は一本から注文可能。どれも串打ちが丁寧で、肉と肉の間に隙間がなくみっちりと詰められ、ジューシーを失っていません。
自家製の黒い唐辛子味噌をアクセントに。鶏の塩系にちょっとつけると味に深味がまして、より一層お酒を進ませます。
ビールから梅ハイ梅入り。略して「ウメウメ」。梅エキス入りの酎ハイに梅干しをいれたもので、甘酸っぱくどこか懐かしい味。箸をジョッキに差し込んで梅を潰す行為、はしたないかもですがそれが許される大衆酒場。
カウンターには揚げに包まれた巾着串や、アスパラベーコンなどが並びます。丁寧な仕事がされていて、どれもぷりっと美味しそう。
ピーマンと気になる巾着を注文。野菜も新鮮で、ごまかしのない実直さがここにも感じられます。
巾着は定番の納豆包のほか、つけもの入りというのがあり、これは珍しいです。納豆サイズに細かくカットされた漬物が海苔に包まれ、それをお揚げが包んでいます。辛子をちょっとつけて食べて、なかなかどうして美味しいのです。
お酒はいつのまにか、本気モードで本醸造。串が美味しいので軽く一寸一杯のつもりが気づけばどっしり飲みに。
カウンターに集まる常連さんは皆さん顔見知りのようで楽しそう。お店の方は常連さんとイチゲンさんを区別なく接してくれるので、そんなカウンターでもきっと居心地よく過ごせるはず。
テーブル席は家族連れでいつの間にか埋まり、奥の座敷も会社員風のグループでいっぱいに。街で長く愛されている店には理由があります。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
丸越
03-3921-7534
東京都練馬区南大泉4-52-18
17:00~23:00(日定休)
予算2,000円