高知・はりまや橋「葉牡丹」 電車通りで一番人気の昼酒処で土佐に浸る

高知・はりまや橋「葉牡丹」 電車通りで一番人気の昼酒処で土佐に浸る

2017年5月21日

全国の酒場を巡っていると、街ごとの飲み屋の傾向が見えてきます。東京、仙台、名古屋に大阪と、大都市の色はわかりやすい。ですが、地方の都市にも強烈な個性がみえることがあり、それが全国酒場行脚の最大の魅力です。

特に高知はすごい。宴会のことを「おきゃく」と呼び、とことん飲み続けると”神様”が降臨するというもの。毎年、3月に開催される高知中心街全域で飲みまくるイベント「おきゃく」は、商店街や公園だけでなく、電車まで宴会場となる、まさに街全体がノンベエと化すお祭りも開かれています。

おきゃくのイメージキャラクターで、飲み続けた末に現れるという”べろべろの神様”が街の中心に鎮座。まさに飲酒過多(※適正飲酒の範囲内で)の街なんです。

高知へは、山陽新幹線岡山駅からJR四国の特急南風で2時間30分。吉野川沿いの風光明媚な車窓が楽しめるので、できれば飛行機は片道程度にして、帰りは鉄道の旅を楽しんでいただきたい。高松とセットで旅程を組んでも楽しいです。

高知駅前はホテルやオフィスビルがあるだけで、”べろべろ”の気配はないのですが、ここから路面電車で2電停進んだ「はりまや橋」が街の中心です。

日中はお世辞にも賑やかとはいえない街ですが、酒場の暖簾は真っ昼間からあちらこちらでたなびいています。ちらりと覗くと、そこには赤ら顔のお父さんたちが平日から大いに笑っています。これでいいのだ、高知は(笑)

高知のお昼酒ならば、飲み屋が密集する商業施設もありますが、酒場に浸るならば間違いなく「葉牡丹」がおすすめ。高知市のメインストリートである電車通り沿いで60年続く老舗です。

11時のオープンから地元のお父さんたちが次々とカウンターを埋めていき、昼間にはもう出来上がっているのです。

そんな常連さん(以下、べろべろの神様)はフレンドリーで、初めてのお客さんにも丁寧に店の魅力や今日美味しかった肴を教えてくれます。絡み酒とも違う、”ようこそワシの通う店へ”といった感じです。

ランチ営業もしているので、昼間はお酒をのまない人も立ち寄れるのですが、”Syupo”を御覧の皆さんには関係なさそう。

高知のビールは90年代半ばまで伝統のキリンがトップシェアを誇っていましたが、アサヒの攻め込みにあい次位へと退潮。その後、「高知が一番。」というキャッチフレーズで盛り返した歴史があります。世田谷区ほどの人口が暮らす高知で、一人あたりのラガー大瓶が日本一消費するということから作られたコピーです。

高知は今も大手2社のせめぎ合いが続き、葉牡丹も生ビールはASDで瓶ビールがRLです。
※ASD:アサヒスーパードライ RL:キリンラガー

サントリーはハイボールで健闘中。サッポロにも頑張って欲しいところ。

高知の人は本当によく飲むので、ビールや酎ハイをたっぷり適正飲酒されたあと、そこから酔鯨、美丈夫、司牡丹に土佐鶴とどっぷり入り込んでいくのです。

松翁が定番酒で2合で432円と笑ってしまうほどお安い。

さて、葉牡丹の話に戻します。刺身、一品料理に揚げもの、串焼きが名物。海老、豚、いか、魚、野菜の5本盛りが287円と、せんべろ好きも大満足のお値段です。

煮込みが100円台、小鉢や炒め物は幅揃い価格帯で揃っています。海老チリやスペアリブなど、どうしてそれを入れたの?というものもありますが、固定のファンがいらっしゃるそうです。

高知名物のくじらやカツオはもちろんあります。地元の人はとくにカツオにこだわりがあり、冷凍じゃないよ、ねっとりとしているでしょう?など、話してくれました。

おつまみは、チャンバラ貝を。ビールはキリンを選んで乾杯です。

細長い巻き貝のチャンバラ貝。九州や沖縄でも採れるそうですが”ちゃんばら貝”という呼び名は高知・宿毛の方からきたものだそう。活きたものを塩抜きしてそのまま茹でたもの。身が甘く、肝のコクがお酒を誘います。

店名入りの徳利には、銘柄がわかるように札がつきます。司はもちろん司牡丹。燗酒、冷酒ともに一升瓶から直接徳利に注いでくれるので銘柄が確認できますし、なにより豪快で素敵です。

高知といえば、のれそれも忘れてはいけません。穴子の稚魚で旬は春ですが、夏をすぎればいわしの稚魚・どろめがでてきます。どろめは軽い海の味がありますが、食感を味わうといったほうが正しいかもしれません。ポン酢で味を〆て、日本酒をきゅっと。幸せです。

鯨のフライも、他県や東京の郷土料理屋で食べるよりも遥かに安い。歯ごたえがあり、馬肉のような甘みが口に広がります。刺身も良いですがフライがこんなに美味しいなんて、給食で食べていた世代がうらやましい。

冷蔵ケースにずらりと並ぶ串はどれも生の状態で、その日のものはその日に売り切るという方針。茹で置きや冷凍されているものではないのに、価格も安く一本から食べられるので、葉牡丹がお昼から流行るわけです。

黒帯ノンベエだけでなく、若い女性二人組みや若い男性の1人酒も多く見られ、お店の人もそれをよしとして老若男女に楽しんでもらえるように努めてくれています。

怖がる必要はありません。高知のべろべろの神様に会いに行きませんか。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

居酒屋 葉牡丹
088-872-1330
高知県高知市堺町2-21
11:00~23:00(無休)
予算2,000円