【閉店】鹿児島・天文館「湯どうふごん兵衛」 大正7年創業、銘店の味で星を飲む

【閉店】鹿児島・天文館「湯どうふごん兵衛」 大正7年創業、銘店の味で星を飲む

2016年12月4日

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南九州最大の歓楽街「天文館」の由来は、薩摩藩の第8代藩主の島津重豪がこの地に天文観測や暦の研究をする明時館・別名、天文館を設けたことからきています。貿易で栄え、ヨーロッパ文化の研究など、西洋への憧れが強かった鹿児島の歴史を象徴するような地名です。

その後、この街から多くの人々がヨーロッパへ留学し、いまの近代文化の礎を築いたのは言うまでもありません。日本初の低温発酵ビール「札幌麦酒」をつくった開拓使麦酒醸造所(サッポロビールの前身)の設立を指揮した村橋久成も、鹿児島の出身です。

そんな近代文化と幕末の香りが残るこの街は、飲食店街も独特な風情があります。 錦江湾の穏やかな海から水揚げされるブリやキビナゴ、かつおといった食材を使った飲み屋が軒を連ね、畜産が盛んなことから豚や牛、鶏料理の店も多い。東京でいうチューハイの感覚で、焼酎のお湯割りが年中人気なのも鹿児島の独特な雰囲気を形成しています。

 

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そんな天文館において、ひときわ歴史のある名酒場をご紹介します。「湯どうふごん兵衛」 は1918年(大正7年)の創業。街の中心地が変わることなく、常に天文館が賑わい続けていた証ともいえる店は、単に「老舗」という括りにするのはもったいない。

 

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引き戸やテントこそ改装されてはいるものの、風情は昔からほとんど変わらないのだそう。ノンベエの大好きなコの字カウンターで10数人が入れる小箱の造り。店名の通り、湯豆腐が看板メニューで、その他も串焼きなど僅かな酒の肴がある程度で、メニューは洗練されています。

 

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お客さんの全員がビールもしくは前割りの芋焼酎を飲んでいます。小正醸造(鹿児島県日置市)の「さつま小鶴」(前割り)は200円と驚きの値段。気になるエクセレンスは、同酒造のつくる米焼酎のオーク樽長期熟成というもの。

 

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天文館で星を飲む。サッポロビールを創製したキーマンの街では星が似合います。黒ラベル(中びん500円)で乾杯。

 

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九州日田工場(H)でつくられる黒ラベルに、地元でとれるゆで落花生が実によくあいます。このカウンターで瓶ビール傾けてぽりぽりと食べている時間は最高です。

 

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全員が湯豆腐を食べるお店ですが、地元ではがらんつと呼ばれる干鰯・干飛魚や、鮮度のいいキビナゴをちょいと炙って食べさせてくれます。お豆腐を常に温めておく大きな鍋の脇には、前割り焼酎を温めるためのチロリがぷかぷかと浮いて出番を待ちます。

 

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13種類の食材が入った湯どうふが看板メニュー。一人前でも、大都市圏のそれを想像を遥かに超えるボリュームなので、一人一人前を食べると次への梯子は諦め、どっしり飲むしかなくなります。

サイドメニューを含め、これしかない。いや、これで十分と言うべきですね。

 

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牛タンは旨味の強いタレにドブ漬けして、飴色に輝いてでてきます。

 

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柔らかく口の中に心地の良い脂の甘さが広がります。ビールが進むことは言うまでもありません。もちろん鹿児島産のもの。上品過ぎず、肉厚でもりもり食べる1本です。

 

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ほどなくしてやってきた、山芋やホタテまで入った具だくさんの湯どうふ。なんとこれで1人前。予め豆腐は温水の中で浮いているので温かいですが、お客さんのところで軽くひと煮立ち。長年作り方を変えずに守ってきた専用の豆腐は、普通のそれよりもかため。海苔をたっぷりいれた特製のツユにつけて食べれば、気分がとってもいい。

半世紀以上かわらぬ味が、旅先の暖簾の向こうで待っています。

 

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一杯200円の焼酎は、酒造の方が直々に店の裏で前割りにしているのだそう。長い付き合いの証です。

その場で割らずに事前に水と焼酎をあわせておく前割りは九州ならではの酒文化。味がまろやかになり、ただひたすらに進む旨さがあります。

 

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年配の方はもちろん、近所の会社員や、酒場に慣れている雰囲気の若いカップルまで客層は様々。ですが、だれもが店の風景に溶け込むようにしっぽり飲みながら、ときどき笑い声をだしつつ、いい雰囲気をつくっています。

カウンターに立つお姉さんたちの家庭的で気取らない接客もこの店の大きな要素です。湯どうふの温もりと、人の暖かさに癒され、鹿児島の夜は楽しい時間が流れます。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/サッポロビール株式会社)

 

湯どうふごん兵衛
099-222-3867
鹿児島県鹿児島市東千石町8-12
17:30~22:00(日定休)
予算2,500円