物騒な名前ですが怖くありません。若い人がつくった最近の酒場を巡る方だと、店名以上にこの店構えであっとうされて引き返してしまうかもしれませんが、そういう意味も含めて、「怖くありません」。
昭和を愛でるという表現がぴったりの大衆酒場「バクダン」をご紹介します。
高円寺駅から早稲田通りに向けて商店街をひたすら北上したところにあります。杉並区の商店街は活気がありお店も個性的、さらにひとつひとつが長いので秋の夜長の散歩にぴったりです。
バクダンは、昭和の酒場が好きな人にはたまらない銘店。地元の酒場の主のようなお父さんたちがボトルの焼酎を囲んで夜な夜なメートルをあげています。
建物はだいぶ年季がはいっていますが、テーブルや調味料の隅まで掃除が行き届いているのでご安心を。逆にカレンダーと瓶ビールを除いたすべてが飴色に染まっている世界というのも、別世界感があってお酒でまどろむのにはちょうどいい。まさに味わい深い空間です。
瓶ビールはなんとアサヒ、キリン、サッポロと大手3社が揃っています。これなら旧財閥系の人との接待も安心!いやいや、そういうお店ではないですよ。
今日は黒ラベルの気分でしたので、大びん(500円くらい)一本をもらって、トトトと注いででは乾杯。すぐでる白菜をつまみに、まずは喉を潤し店内の黒板メニューに目をやります。
あぁ、万願寺なんて最高ですね。おつまみはポテサラ250円など、どれも実に庶民派価格。季節感のあるものを置いていて、定番メニューはあってないようなもの。週に何度も足を運ぶ常連さんが多い町の酒場らしい飽きさせないメニュー構成です。
焼売も3個で250円。なぜだろう、中央線沿線ではサッポロビールと焼売を合わせたくなります。お刺身やイカの丸焼きなど海鮮もワンコイン程度で並ぶので、値段を気にせず大名注文をしたい(笑)
中野のローカル清涼飲料水メーカーの東京飲料、略して「トーイン」。バクダンからトーインは徒歩で行ける距離ですし、やっぱり割材はこれ。杜仲茶(とちゅうちゃ)割り。トーインは同じく割材メーカーのホッピーやコダマ飲料以上にラインナップが多く、前衛的な姿勢。杜仲茶は味が濃く、半分以上注がれている焼酎甲類にも負けない風味を楽しめます。
地元のお父さんたちの笑い声を聞きながら、チューハイ類を飲み進める。おしゃれなイメージの杉並区とは違う、昔ながらの庶民的な空間がまったく変わらずこうして残っているのが嬉しい。
そうそう、レモンサワーは目黒の博水社、炭酸は吾妻橋のウィルキンソンと、割材のメーカーが統一されていません。ついついそういう細かいところが気になるのがマニアといいますか(笑)
土日も営業、夕方16:30からと駆け出しの一杯にちょうどいいお店です。閉店が21時と早いのも地元酒場ならではといった感じ。
代替わりして、いまはやる気に満ち溢れた店主と、笑顔がチャーミングな女性スタッフで切り盛りしているいい感じの酒場です。お近くの方はぜひ。古くからやっている店で飲むせんべろはいいものです。
今年で開店60周年。これからも末永く。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
バクダン
03-3338-2054
東京都杉並区高円寺北3-44-24
16:30-21:00(火定休)
予算1,600円