港区虎ノ門。高層ビル群の麓に大正時代の木造建築の蕎麦屋が今も残されています。1872年創業の『大坂屋 砂場 本店』は、江戸三大蕎麦の一つ、砂場の系譜。建物は登録有形文化財に指定されている上に、砂場の名門ではありますが、実は意外と良心的。今回は、伝統的に芝海老をつかった天せいろの魅力をご紹介します。
曳家で守られた大正建築と江戸蕎麦の歴史

虎ノ門駅から徒歩数分。森ビル主導の大規模開発が進み、近代的な虎ノ門ヒルズをはじめとした超高層ビルが空を覆う未来都市。そんなビル群の中に、突如現れる木造2階建ての瓦葺き建築。この際立ったコントラストが、新旧の交差する東京らしくて実におもしろい。

『大坂屋 砂場 本店』は店名の通り、蕎麦の名門、砂場の系譜。大坂城築城時の砂置き場に由来する上方発祥の蕎麦文化から暖簾分けし、明治5年にこの地で創業しました。
現在使用している店は、関東大震災直前の大正12年に建てられたもので、百年以上蕎麦屋として使用されています。ミュージアムの再建展示などよりも、よっぽど現役で使われているこちらの店のほうが、東京の歴史が感じられると思います。

奇跡的に、戦火や数々の震災を免れてきました。2020年には店先の都道「愛宕下通」の道路拡幅で存続が危ぶまれましたが、曳家工法で建物をそのまま移動させることで、再びこの建物で営業を再開。これからも、港区の変化の中でタイムカプセルとして残ってくれそうです。

店内は長年磨き込まれた黒光りする柱や大正ロマンの意匠が残り、国指定の登録有形文化財ならではの重厚感に溢れています。

昼夜問わず、周辺企業で働く蕎麦好きから観光客まで幅広い世代が、この静謐(せいひつ)な空間に癒やしを求めてやってきます。老舗の名門ながら決して入りにくさはなく、花番さんの親しみやすい接客も魅力の一つでしょう。
遠方から足を運んでも後悔しない確かな価値を実感できます。
銘酒と味わう極上の蕎麦前、江戸前の誇り「芝海老かき揚げ天せいろ」

まずは「キリンラガービール(中)(770円)」を注文。お酒の品揃えが豊富で、蕎麦前を楽しむには最高の環境です。

燗酒ならお薦めの「〆張鶴 純(純米吟醸)(900円)」が実にしっくりくる。老舗は、灘の酒を置きがちですが、ここは定番が新潟なんですよね。肴には定番の「玉子焼き(900円)」や「板わさ(800円)」などを合わせ、静かに盃を傾けるひととき。最高です。

さて、ここでぜひ食べてほしい蕎麦は、「芝海老のかき揚げ天せいろ(2,100円)」です。

江戸前の天ぷらといえば、東京湾の芝浦周辺で水揚げされていた芝海老が本流です。

巨大なエビに喜ぶのもいいけれど、老舗で伝統的な味を楽しむのも「粋」でしょう。

焙煎した胡麻油の香ばしい香りが漂い、箸を入れるとサクッとした衣の中から、濃厚な甘みと旨味を蓄えた芝海老が顔を出します。

カリッカリに揚がっているので、つゆに浸しても衣のエッジはたったままなのも特長です。

蕎麦は北海道産そば粉を使用し、中心部だけを贅沢に挽いた白系の細打ち麺。

そば粉10に対して2割の小麦粉をあわせる”外二”です。

滑らかな喉越しと確かに感じる繊細な香りが、濃いめでキリッとした辛汁によく合います。

芳醇で重たい「かえし」がいかにも江戸の蕎麦という印象。かき揚げの油分が徐々に溶け出し、味わいが深まっていく過程も計算し尽くされた逸品。
時代を超えて愛される、都会のオアシスで粋な時間を

これだけ手間のかかった老舗の味でありながら、お財布に優しい価格設定もオススメしたい理由です。
『虎ノ門 大坂屋 砂場』でお酒を楽しむならば、17時の開店直後がベスト。お客さんはまだ少なく落ち着いた雰囲気で、ここが港区であることを忘れさせてくれます。高層ビルが林立する大都会のまん真ん中で、日常を忘れて粋な蕎麦前を楽しむ贅沢な時間をぜひ。
あぁ、昨日お邪魔したばかりなのに、こうして思い出しながら書いていると、今すぐにでも虎ノ門へ向かいたくなってきました。
店舗詳細



| 店名 | 虎ノ門 大坂屋 砂場 |
| 住所 | 東京都港区虎ノ門1丁目10−6 |
| 営業時間 | 11時00分~14時00分 16時30分~20時00分 土日祝定休 |
| 創業 | 1872年 |
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