御影『灘五郷酒所』日本最大の酒処「灘」の全26蔵が揃う、夢の飲み比べスポット

日本酒の生産量世界一の街、神戸市の「灘」エリア。菊正宗、白鶴といった大手酒造メーカーが集まっているため、酒蔵見学が街の重要な観光コンテンツとなっています。そんな灘で、日本酒を飲み比べることができるスペシャルなスポットがあることはご存知でしょうか。

創業500余年を誇る剣菱。その酒蔵の一画で飲む。

兵庫県の灘一帯に広がる5つの酒造地、「西郷」・「御影郷」・「魚崎郷・「西宮郷」・「今津郷」。これらの総称が灘五郷です。六甲山と大阪湾に挟まれた、けして広いとは言えないこの地で製造される日本酒の出荷量は、全国シェアで約24%にもなります。

灘の酒造りの歴史は室町時代にまで遡ります。六甲山から流れる流速の早い川の流れを使った水車動力の精米設備の登場や、良質な酒を生み出せる六甲の湧水「宮水」の発見、樽廻船の登場などにより、量、質、流通において他の地域を圧倒。江戸時代は、樽の香りがついた灘の酒を「下り酒」として江戸で大評判になりました。

沢の鶴、白鶴、菊正宗、剣菱、松竹梅、櫻正宗、日本盛、白鷹、白鹿、大関…。灘にある酒蔵を揚げると、驚くほど全国区な銘柄が続きます。日本酒愛好家に限らず、お酒好き、酒場好きという方なら、灘のお酒を一度は飲んでいるはず。

見学できる蔵元も多く、日本酒好きならば一度は巡りたい酒の聖地なのですが、2022年には日本酒好きの夢を叶えるような施設がオープンしました。全26蔵の銘柄をほぼ網羅するほど揃える立ち飲み『灘五郷酒所』です。

全長50mもあるという巨大なコの字カウンターが堂々と配置されたインパクトのある空間。酒造りと神様の関係は深いこともあり、神社をモチーフにしたとのこと。

コの字カウンターの正面には、ずらりと醸造・貯酒用のタンクが並んでいます。

実はここ、灘の銘酒のひとつ「剣菱」の蔵の一部を活用した施設なのです。500年以上の歴史を持つ剣菱は、何度か蔵の建て替えを行っており、『灘五郷酒所』がある現在の建物は、阪神淡路大震災以降に復興されたものです。

醸造タンクなどが並んでいたスペースを活用しているため、天井は高くかなりゆったりとした配置です。なんだか、まるで自分自身も醸されていくような気分。

営業は、金・土・日及び祝日の週末に限られていますが、それにあわせて大勢のお酒好きが集まってきます。大都市からの旅行客、日本酒に興味を持つ外国人、近隣のお酒好きの黒帯ノンベエさんまで客層は様々だそう。

営業日は毎日、生まれた土地や世代を越え、酒好きという共通点で結ばれた人々で大いに盛り上がります。

施設の特長は、なんといっても灘五郷の全蔵のお酒が集まっているところです。

大衆酒場でお燗用に用意されている定番酒から、百貨店催事や蔵元の直売所でしかみかけないようなハイクラスのお酒まで、ほぼなんでも揃っています。白鷹の大吟醸純米なんて、はじめて実物を見ました！

一升瓶から気になるお酒を有料試飲するというスタイルは、大都市を中心に全国に広まっていますが、灘エリアに特化してこれだけ揃えているのは、また違った良さを感じます。大手がつくる珍しい日本酒が好きな筆者は、取材中、テンションが上がりっぱなしでした。

まずは、回数券風のチケットを購入します。チケット12枚で2,400円。1枚200円相当で、お酒は2枚から交換可能です。チケット枚数は手元の品書きでチェック。

料理とお酒のペアリングも提案されており、3,000円～で灘五郷の日本酒5杯と、それにあわせたおつまみ3品がついたセットが人気だそう。

暑い季節の乾杯は、ビールやサワー類がイイ！という人が多いと思いますが、こちらでは剣菱の超特選をつかった酒ハイボールが評判です。日本酒で使う単語ではない気もしますが、いわゆる「シグネチャーカクテル」といったところ。

爽やか爽快！それでいて剣菱特有のコシのある米の旨さと香りが心地よいです。

酒場でおなじみ、白鶴、剣菱、櫻正宗。いつもの絵柄のレッテルですが、よくみると特撰！このクラスのお酒を長い時間をかけて飲み続けるのが一番幸せかも。（お酒は適量で）

それでも、やっぱりビールが飲みたいという皆さま、ご安心ください。瓶ビールは1銘柄だけですが、サッポロラガーが用意されています。選ばれた理由は、関係者の完全な好みなのだとか。

日本酒好きなら一度は飲みに行きたくなるような、特別な空間です。昼飲みも可能！

なお、剣菱の施設内にありますが剣菱酒造の運営ではありません。店主の坂野さんは神戸出身の元広告代理店マン。Uターンで起業しました。いまは地元の酒蔵とともに地域活性化に取り組んでいます。

灘には多くの蔵が見学施設などで試飲コーナーを設けていますが、すべてを一堂に集めた施設が存在しないため、イベントスペースとしても機能する、灘の酒蔵巡りの中心となるような場所を創りたいとの考えでオープンしたそうです。

（取材・文・撮影／塩見なゆ）