1950年に完成した新梅田食道街には、全国でも珍しい樽酒の立ち飲みがあります。店名は『樽 金盃』ですが、酒は「白鶴」。しかも「樽 金盃」仕様の特別なもの。名物のエッグや焼みそなどの酒のアテも評判、連日14人入る店内は満員になります。
目次
乗り換えついでに軽く一杯
新梅田食道街は、食堂ではなく「食の道」と書きます。JR大阪駅と阪急大阪梅田駅に挟まれたJR高架下の細い通路に、びっしりと100店近くの飲食店が並ぶ様子は、まさしく食の小道。
1950年に完成した70年以上の歴史ある施設なので、営業している飲食店はどこもいぶし銀の店構え。老舗酒場が好きな筆者は、梅田に来たら2度・3度往来し、梯子酒に勤しんでいます。
今回ご紹介する『樽金盃』は大好きな一軒で、10年くらい前、ひとりで勇気を出して縄のれんを潜って以来、時間があれば訪ねるようにしています。
他の酒場や洋食店は開放的な店構えですが、『樽金盃』は店の様子を外から窺うことができず敷居の高さを感じます。食道街の北の端にあるのも、人の流れを避けているように思えて、一層緊張したものです。
外観
それでも、19時頃のピークタイムはどうやら満員に近い様子。「えいやっ」と勇気をだして縄のれんを潜ったのでした。
店はL字をかいたカウンターのみで、椅子のない立ち飲みです。そこにエプロンがトレードマークの大将が立っています。無口なようですが、お客さんとの距離の取り方が素晴らしく、しばらく飲むと自然と会話が始まることも。大将を支えるお手伝いのお姉さんたちも仕事が迅速・丁寧。
お客さんはベテランさん揃いです。14人入る店内は、入れ代わり立ち代わりで常に賑わっていますが、キリッとした店の雰囲気が保たれています。
カウンターの中央に鎮座する白鶴樽酒が店の顔
カウンター中央には、白鶴の樽酒が鎮座しています。大将によると、ここの金盃は白鶴がつくる特別仕様なのだそう。白鶴酒造の方がプライベートで飲みに来ることもあるといいます。樽から流れる酒を塗の片口で受け、それを大きな猪口へ注いで提供するのがここの基本形。
品書き
お酒
- 樽酒一杯:450円
- 生ビール(キリンハートランド)小:400円
お酒はなんと2種類のみ。生ビールではじめて、樽酒を数杯…というのが一般的な流れです。
料理
- かんぱち造り:500円
- エッグ:300円
- 焼味噌:350円
- 明太子:350円
- いわし団子汁:350円
- 焼きソーセージ:350円
- かしわすじ焼:350円
お酒に比べると、料理の品数はだいぶ多いです。造り(刺身)は仕入れ次第で、きずしが加わることも。
一日100万人が往来する駅で、この落ち着きは奇跡
キリンハートランド(400円)
頭上や壁の向こうを一分間に100人単位の人が行き交っているのに、ここは魔法にかけられたように静寂が支配しています。
大将の軽く会釈して、まずはビールから。店は30余年の歴史がありますが、キリンハートランドも登場は同じくらい。あえてキリンラガー樽ではないあたり、大将の好みが感じられます。
それでは乾杯!
白鶴 ひや:常温のこと(450円)
ハートランドをすーっと喉に流し、調子をつけたところで目的の樽酒を。樽は長く入れていると香りが付きすぎるので、それをコントロールするのも大将の技の一つ。ここの白鶴樽酒は”うまい”のです。
焼味噌(350円)
樽酒特有の爽やかな風味は、濃厚な肴とあわせるとより引き立ちます。ここの焼味噌は樽酒とあわせるために考えられた味付けです。
表面がパリパリになるまで強めに焼かれており、全体的にかなり固め。見た目に反して辛さは落ち着いており、甘さやコクがお酒を誘います。
エッグ(300円)
大将のオススメは、他では滅多に見かけない”アテ”、「エッグ」です。「エッグベーカー」と呼ばれる小さな土鍋風の陶器をカチンカチンに熱して、生卵を2個いれたもの。これを食べる前に混ぜ、スクランブルエッグのようにしていただきます。味付けは塩のみ。
シンプルな料理ですが、これが酒の入りをさらにスムースにします。飲み過ぎにはご用心。
ハモの皮(400円)
鱧の皮を湯がき、きゅうりとあわせてポン酢でまとめたもの。旨味がぎゅっと詰まったハモの皮の部分は噛むほどに脂が感じられ、実にいい味です。
ごちそうさま
どの料理も樽酒との相性が抜群の精鋭揃い。お通しがなく、値段も手頃なので気軽に楽しめるのも嬉しいポイント。30分程度の滞在でさくっと仕上げていく人が多く、お客さんの入れ替わりが一巡したくらいで、私もお会計。
樽酒がお好きでしたら一度は訪ねてほしい大阪・梅田の名店です。
近くの酒場
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 樽 金盃(たる きんぱい) |
住所 | 大阪府大阪市北区角田町9-26 新梅田食道街 1F |
営業時間 | 営業時間 [月~金] 16:30~23:00 [土] 16:30~22:00 定休日 日曜・祝日 |
開業年 | 創業から30余年 |