魚好きにとって、「魚屋直営」というのは魔法の言葉です。魚屋の奥に飲食スペースがあるならば立ち寄らずにはいられません。西小山商店街にある鮮魚店の奥には『ぎょぎょ』という魚介料理を揃えた居酒屋が営業しています。もちろん、魚屋の直営です。
目次
「商店街の魚屋さん」という優しい響き
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武蔵小山は東急目黒線の急行も停車するので比較的認知されていますが、となりの西小山はもっとローカルな存在です。このふたつの街は商店街でつながっており、実は西小山も相当いい酒場が集まっています。飲み屋街らしいものはなく、商店街の中に赤提灯がマーブル状に混ざっており、いつもと違った梯子酒の風情が楽しめるのです。
かつて地上にあった線路と直角に交差するように延びる「西小山商店街」が今回の探索スポット。天ぷらの酒場や町の大衆中華など、個人・小箱の店ばかりで歩いていて実に楽しいです。
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駅からのんびり歩いて5分ほど。商店街を北に向かっていると、発泡スチロールのトロ箱が敷地一杯に並べられた魚屋がみえてきます。
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覗いてみると、しっかり売り物の魚介類が揃えられています。結構品目が多く、築地場外市場の仲卸直営の売り場と魚種的には遜色ないほどです。
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干物、乾物、加工品も並んでおり、今夜の酒の肴になにか買っていこうかと悩んでしまいます。
「いらっしゃい!買い物ですか?」と迎えられると、気になるのが店の奥。さっきから気づいていたのですが、魚屋さんなのに赤提灯がかかっています。そう、そのまま奥へと進むと、なんと居酒屋になっているのです。
しかもほぼ満席状態。カウンターには飲み慣れた常連のお一人さんがいて、テーブル席には家族連れや飲み仲間風の人たちの姿。皆さん普段着、手ぶらでご近所さんのようです。
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聞けば2016年から店の奥で居酒屋をはじめたそうです。目黒区の魚屋さんですから、もちろん豊洲市場で直接仕入れたものばかり。これは期待できそうです。
品書き
お酒
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樽生ビールはサッポロ生ビール黒ラベル:580円。瓶ビールはアサヒスーパードライ中瓶:680円、サッポロラガー中瓶:680円、サッポロヱビス中瓶:750円。
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日本酒、焼酎もいろいろ揃っています。なお、日本酒は売り切りで変わっていくものもあり、品揃えは店内の張り紙でご確認ください。
日替わりの刺身
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刺身だけで20品以上もあります。かなり気合です。魚屋直営の魅力が伝わってきます。
天然マグロ中落ち:850円、生ほたて:850円、さより:850円、活〆めいたカレイ:990円、活生たこ:770円、自家製しめさば:740円など。
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ホワイトボードはひとつだけではありません。焼き、煮、揚げ物も日替わりです。
メバル煮・焼:880円、穴子フライ:850円、金目姿煮:1,840円、本マスバター焼:850円、やりいか姿焼:780円など。
定番メニュー
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銀だら西京焼:950円、珍味氷頭:580円、明太子焼:580円など。
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生アジフライ:680円、エビフライ3本:880円、鯛ちくわ磯辺揚げ:500円、野菜天ぷら盛り合わせ:780円など。
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品数が本当に多いです。ここでは紹介しきれませんが、品書きはまだまだ張られています。
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ランチ営業も人気だそう。内容は日替わり。ランチメニューにも生ビールの記載があります。ランチ飲みにも良さそう。
商店街の魚屋らしい家族経営の人情たっぷり接客
サッポロ生ビール黒ラベル(580円)
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たっぷり入るスマートなグラス、昔からある435タンブラーに注がれた状態抜群のサッポロ生ビール黒ラベル。これだけで嬉しくなっちゃいます。乾杯!
活あおやぎ(740円)
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目移りするほどの楽しい品揃えから、選んだのは青柳です。全国で水揚げされる青柳(バカガイ)ですが、かつては東京湾を代表する貝類のひとつだったこともあり、東京の魚屋さんや魚好きにとっては思い入れのある貝です。筆者の好物でもあります。プリップリで甘く上品な磯の香りがたまりません。
五橋 上撰
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他の地酒と比べて安価で用意している店の定番酒的な銘柄は、なんと酒井酒造(岩国)の五橋です。美味しいお酒よね、と女将さんが話しながら準備してくれました。
上撰というスタンダードなお酒ながら、山口県産米の日本晴を原料に錦川の伏流水を使用した、軟水仕込の優しく飲み心地のいいお酒です。銘柄の由来は、錦川にかかる五連の木造アーチ橋である「錦帯橋」からきています。
たち魚塩焼き(770円)
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美味しい魚介に美味しい日本酒。この組み合わせが苦手な飲兵衛がどこにいましょうか。
ほろ酔いになってきたところで、二品目の太刀魚がやってきました。
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焼き具合が絶妙で、しっかり熱は通っていても身はフカフカ。太刀魚特有の脂の多さもあって、口に含むとトロッと溶けていきます。大根おろしの風味で気持ち軽くなった余韻に、五橋のわずかな苦味があわさり実に心地いいです。
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常連さんが多い店なのですが、終始女将さんが気にかけてくださり、お話を聞かせてくれました。家族で魚屋から居酒屋主体へシフトして、まだまだ試行錯誤の最中なのだそう。温かい接客に豊富な品ぞろえ、なにより魚が美味しいので地元の人で満席になる理由がよくわかります。
日曜日も営業していますので、休日に魚をつまみに飲みたくなったら、目黒線沿線ではベストな選択ではないでしょうか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
2022年11月、誠に残念ながら閉業しました。