長年愛されてきた酒場は味わい深い。川崎で半世紀、精肉店に併設されたもつ焼の「島田屋」は、ちょっと昔の川崎にタイムスリップした気分に浸れます。串は1本60円と大変安く、営業時間も15時からと、ノンベエの心をくすぐる一軒です。
工業都市の酒場の雰囲気に浸れる店
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工業都市・川崎。川崎に限らず、北九州や横浜など、重工業地帯の酒場は独特な雰囲気が漂っているものです。夜勤明けの人向けに日中から営業するお店や、酒屋の店頭で飲ませる角打ちなど、共通する特徴も多いです。そして、どの工業都市にも、焼鳥・もつ焼き・ホルモンはつきものです。
今の川崎駅周辺はすっかり再開発が完了し、おしゃれなデートスポットのムードすら漂っていますが、海の方へ向かうとまだまだ、昭和の川崎の風景が残されています。そうした空気感もお酒のおつまみになるお店が「島田屋」です。
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駅から浜川崎方向へ徒歩15分。少し距離があるので、駅前から川崎臨港バス(さつき橋バス停下車)を利用するのがおすすめです。
戸建てが立ち並ぶ路地に立つ、ディープな店構えの一軒。隣は島田商店とあり、モツの卸から「島田屋」としてもつ焼き店を直営しているタイプです。
簡素ながら飲みたくなる品書き
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店構えに敷居の高さを感じますが、一歩入ってみればベテランのお姉さんたちと”オードリー”が優しく迎えてくれるので安心です。
奥へ伸びたカウンター席とちょっとしたテーブルを配した20数席の店内。大きすぎず、小箱過ぎず、筆者的にはちょうどいいお店の大きさです。注文も通りやすい、といっても、オーダーは手元のメモ用紙に記入しておこないます。
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キリンのリターナブルびん特有のセラミックコーティングの光沢が15時の太陽光をキレイに反射させています。それでは一杯目、乾杯。
大びんのキリンラガーは酒場のテーブルの上が一番似合います。こちらでは1本560円です。
「島田屋」ではなく「七沢荘」と宿の名前が書かれたビアタン。昔はビール会社がビアタンを提供していましたが、いまは貴重品です。
新鮮!安い!美味しい!
もつ焼きは安くて美味しいもの。明日への活力になるおつまみですね。それを改めて感じさせてくる「島田屋」のモツ料理。もつ刺しをつまみながら、串が焼けるのを待ちましょう。
鮮度がわかる、ハリとツヤ。コブクロさしとミミさし
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刺しものは1皿300円。とんすいに盛られて供されます。一人で摘むならば、これで十分なボリューム。
クセがなくともやはりモツさしはそんなに量を食べられませんが、ここのコブクロはみずみずしく(けして水っぽいではなく)、酢味噌の爽快感とともにすいすいと食べられてしまいます。
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艶(つや)があるミミさしも絶品。歯ごたえを楽しんだあとから、じんわりと豚の脂の旨味と旨味が思い出したかのように舌の上で膨らんできます。
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ビールはアサヒも取り扱っています。アサヒのほうがメインで、樽生ビールでアサヒスーパードライも用意されています。夏場、15分歩いてきてからのスーパードライはきっと格別でしょう。春の瓶ビールももつろん良いものです。
生野菜(150円)
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今日日、スーパーのお惣菜のサラダですら200円する時代、酒場で1皿150円で生野菜が食べられるなんて素晴らしい!豚モツを食べ続けると感じてくるあのしつこさも、たっぷりマヨネーズのトマトでリセットです。
ジューシーでぷりぷりのもつ焼き
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安いといえば、なにより看板料理のもつ焼きが今でも1本60円というのは破格です。ジューシーでクセがなく、深味ではなく軽快な旨さがあるもつ焼きです。
3本から注文可能、部位はレバ、シロ、かしら、タン、ハツ、なんこつ、こぶくろの7種類。もつ焼きを含め20品ほどしか献立は用意されていないものの、毎日のように通う常連さんも非常に多いです。それだけこのもつ焼きとお店の雰囲気がクセになるということですね。
ガス式の焼台で常にもうもうと焼き上げている串。ご近所の方はテイクアウトで大量に購入していくこともあって、常に串が狼煙を上げているほど。そうした活気もまた魅力のひとつです。
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ビールのあとはハイボール(400円)。アルコールはビールと清酒、ウイスキーとハイボールしかありません。めずらしく酎ハイがないもつ焼き店です。
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「郷に入りては郷に従え」の精神でそっとお邪魔させてもらう気持ちで入れば、心地よく過ごせること間違いありません。明るく優しく、どこか懐かしい空気に包まれたもつ焼き店です。
早くから飲める日に、川崎散策がてら立ち寄られてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 島田屋 |
住所 | 神奈川県川崎市川崎区境町11-3 |
営業時間 | 営業時間 [火~土] 15:00~20:00 定休日 月曜・日曜 |