余市『ニッカウヰスキー余市蒸溜所』世界で唯一の石炭直火蒸溜が力強い味を生み出す

余市『ニッカウヰスキー余市蒸溜所』世界で唯一の石炭直火蒸溜が力強い味を生み出す

2021年1月8日

日本のウイスキーの父・竹鶴政孝の激動の人生は、2014年度後期に放送された連続テレビ小説「マッサン」の主人公の物語として一躍有名になりました。

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簡単におさらい。

竹鶴政孝は、広島県竹原にある酒蔵「竹鶴酒造」の従姉の三男として生まれ、摂津酒造(現在の宝酒造の一部)に就職後、日本でウイスキー造りをはじめるため、スコットランド・グラスゴーへ渡ります。

そうして蒸留技術を学ぶ中、ジェシー・ロバータ・カウン(リタ)と出会い、今から101年前の1月8日に、当時珍しかった国際結婚を果たしました。

リタとともにウイスキー造りの夢を叶えるために、帰国した竹鶴でしたが、摂津酒造によるウイスキー計画は頓挫。そんな中で、寿屋(現在のサントリー)の鳥井信治郎社長に迎えられ、1924年、山崎蒸留所を竣工させ、初代責任者となりました。

10年後の1934年、竹鶴は寿屋を離れ独立。資本を集め、念願だったスコットランドと風土が近い北海道に蒸留所を建てるべく動き始めます。こうして設立された会社が大日本果汁、現在のニッカウヰスキーです。

ニッカウヰスキーを訪ねよう

北海道・余市にニッカウヰスキーの蒸留所はあります。小樽からJR函館本線に揺られること25分。有人駅で、立派な駅舎が迎えてくれます。

駅を抜ければ、正面に蒸留所を見ることができます。この駅前通りの名前はリタロード。

スコットランドの古城のような正面ゲート。

完全予約制となっていますが、通常工場見学が可能な余市蒸留所。札幌から気軽に尋ねることができるので、見学初回から多くの愛好家の姿がみられます。

東京ドーム4個分はあるという広大な土地のなかに、多くの登録有形文化財が残され、一部は現役の施設として稼働しています。

霧雨まじりのモヤが途端になくなり、あっという間に青空が顔を出す…。訪ねて感じた最初の印象であり、最大の魅力と思ったのは、ヨーロッパを思わせるような自然と調和した空間そのものの素晴らしさです。

敷地内には26の樽の貯蔵庫や多くの関連施設があり、蒸留所内そのものがひとつの村になっているような場所です。80人ほどが勤務し、うち20人が製造技術者だそうです。

昭和15年頃に完成したという第一乾燥塔。ここでピートを焚き、麦芽の乾燥とそれによる独特な風味づけがおこなわれていた建物です。通常時は使用していないとのこと。

蒸留棟はのちに増築されたとはいえ、昭和10年頃の完成とは思えないほど巨大な施設。精麦、仕込み、発酵と、ビールをつくる工程と似た流れを歩んできた原料は、ここで蒸留されニューポット(樽で貯蔵する前のウヰスキー)へと変化します。

ポトスチルには、しめ縄と紙垂(しで)が掛けていますが、これは竹鶴酒造由来の祈願を込めたもの。洋酒でありながら日本人らしい酒造りが息づいています。

現在、世界でも唯一となった石炭直火蒸溜が続けられています。炉の温度は800℃を超えるそうです。

7~8分、蒸気機関車のように投炭が必要です。竹鶴がつくったフレーバーを守るため、自動化はされず今も続けられている、生きた産業遺産です。

こちらは旧竹鶴邸。昭和10年ころに建てられたもので、洋風な外観ではあるものの中は和室も存在します。床の間もあり、掛け軸には竹つ鶴が描かれているそうです。※見学できません

ニューポットは、樽つ詰められ、10年近く寝かします。昨今のウイスキーブームでも増産ができないのは、ウイスキーの寝かすという工程の長さネックとなっています。

この長い年月を、寒さ厳しい余市の大地で静かに眠り続けることで、上質なウイスキーが生み出されていきます。お酒づくりは、日本酒もビールもウイスキーも、自然が作り出す恵みの一滴ですね。

ウイスキーの香りが穏やかに漂う貯蔵庫の中で、何百もの樽が眠っています。

敷地内にはレストランと試飲コーナーが用意されています。熱心なウイスキーファンたちが、見学を終え「まっていました」と間隔を開けつつ列を作り、試飲コーナーへと向かっていきます。

見学ツアーは無料ながら、試飲では「余市」やアップルワインなどを1杯だけ味わうことができます。飲み方もトワイスアップやロック、ハイボールなどから選べます。

北海道の大地で寝かし育ってきたニッカのウイスキー。広大な自然を見渡す試飲スペースは、それを実感できる場所です。

敷地内には貯蔵庫を改装したウイスキー博物館があり、竹鶴とリタの人生を知る様々な資料や、ニッカウイスキーの歴史を知ることができます。

竹鶴政孝と竹鶴リタ。遠く古郷を離れ、大戦も起こる中、関西、そして余市で暮らしたリタ。思い出の品々が飾られています。

竹鶴は釣り好きだったそう。学校の通信簿まで展示されていますが、そこまでみせちゃうのね。

ニッカウヰスキーがつくってきた様々なウイスキーが液もはいった状態で豊富に飾られています。

驚いたのは、1940年(昭和15年)10月に発売された第一号ウイスキーが残されていること。エンジェルズシェア(天使の分け前)は樽熟成で蒸発して量が減ることですが、瓶でも減るわけで…。それでもまたこれだ残っているのですね。

お酒は楽しいとき、悲しいとき、日常から特別なときにまで、誰かとの思い出の中に刻まれていくもの。懐かしいお酒をみると、その時代の自分を思い出すものです。私の両親が飲んでいたのは、えーっと。

さらに奥へと進むと、有料試飲コーナーがあります。ここでしか飲めない、スペシャルなものも。

シリアル番号が振られたニッカ ウヰスキー余市 10年 シングルカスク57度(15ml/1000円)。気軽に飲めるのは原則ここだけと言われています。

※シングルカスクは単一の蒸留所のひとつの樽の原酒を詰めたもの。

ウイスキーづくりの実直さを肌で感じ、北海道の大地で育つ余市のウイスキーにさらなる魅力を感じた、余市蒸留所。札幌から日帰り圏内でもありますから、一度は訪れてみることをおすすめましす。

見学のあとは近隣の郷土料理店や酒場で、余市の魚介類を肴にニッカウヰスキーのソーダ割りなんてどうですか。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

施設名ニッカウヰスキー余市蒸留所
所在地北海道余市郡余市町黒川町7丁目6
公式サイトホームページ