半世紀以上に前に蒲田で創業し、都心を中心に暖簾分けで店を増やした三州屋。
築地、豊洲と東京の魚河岸から仕入れてきた老舗の力で、大衆的な価格ながら割烹相当の魚を食べさせてくれると、ビジネスマンを中心に長年支持されています。
三州屋はここ数年で神田店、八重洲店、そして新橋店とのれんを畳んでしまい、老舗が続くことがいかに大変なことかを改めて感じさせられています。働き方や飲み会のかたちが根本から変化した2020年、どうか日本橋の三州屋は続いてほしいものです。
東京駅からは徒歩7分ほど。東京メトロ銀座線の日本橋からなら徒歩3分。再開発が進み、軒並み高層ビル群になった日本橋にあって、昭和の面影を色濃く残しています。
その雰囲気は、地方の港町にあるような料理旅館のよう。旬の魚介類とおつまみに、状態のいい生ビールや湯煎でつけた清酒白鶴をきゅっと口に運びたいです。
三州屋日本橋店の魅力は料理だけでなく、今では真似したくても作れない、この重厚感ある内装でしょう。一枚板でピンとした無垢の大テーブルが並び、電球色の証明が幻想的に照らしています。昭和の松竹映画のワンシーンのよう。
箸袋は各三州屋で共通。大衆割烹をうたう店は昨今貴重です。
ビールは長きに渡ってサッポロビール。三州屋が開業したころは、東京都中央区にサッポロビールの本社がありました。大瓶(黒ラベル・大びん600円)がまぁよく似合います。
ビヤタンに注いで、それでは乾杯!
お通しは日替わりで、あら煮やしらすおろしなど。渋い小鉢がかっこいい。
瓶ビール大瓶600円は、この手の大衆割烹としては割安。ましてや、ここは日本橋です。黒ラベルのほかにサッポロラガー、キリンラガーも用意があります。樽生ビールは黒ラベル。酎ハイ類は昔からキンミヤベース。日本酒が白鶴なのは、三州屋各店で共通しています。
壁に掲げられた品書きは、眺めているだけでお酒やビールの一杯はすぐに飲みきってしまいそうです。それだけ魅力が詰まっています。
季節によって魚介類は変動しますが、定番の刺身に中とろ、まぐろ、カンパチ、かつお、わらさ、あじ、いか…とさすが品数は豊富です。ベテランの方に人気は丸煮柳川(どじょう卵とじ)。三州屋各店共通の名物「とり豆腐」(400円)ももちろんおすすめ。
今日のおすすめはこれね。元気で接客熱心のお姉さんが日替わりの札をもってきました。
お刺身は、日本橋店ではイカが好み。鮮度がいいコリコリのヤリイカとはまた違った方向でクセになるすっと噛み切れる肉厚のもの。
これには、ビールではく、間違いなくお燗酒でしょう。お銚子を1本つけてもらい、一人手酌できゅっと一口。何度も言いますが、ここは都心のまん真ん中、外の喧騒とは別世界です。
三州屋に来たならば、やはり鳥豆腐は外せません。かつおだけでなく鶏がらからも出汁をとった日本橋ならではの味付け。レタスが入るのも独特ですが、これはこれで鶏鍋感覚で冬はとくにお酒と相性がよいです。
薬味のはいったお醤油小皿がでますが、そのままでも十分に味がついていますから、おすすめは薬味だけ箸ですくい、れんげの上で鶏や豆腐にのせて食べる方法です。
王道の味を磨き上げたさば味噌も美味しいのですが、今日はこれくらいに。シメには、いまどき珍しいクラシックな樽冷サーバーから注ぐ生ビールを一杯。
寒い季節は、呑み終わりに赤味噌のあさり汁を頼むのがお決まり、という常連さんも。これでまた日本酒が一杯いけてしまうのですから、こまったものです。
大箱で落ち着いた雰囲気の三州屋日本橋店。もともと詰め込まないつくりですしベテランのお客さんばかりなので、安心して静かに飲むことができます。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)