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富士山の玄関口、富士吉田。富士山信仰で栄えた町であり、現在も富士登山の山梨県側の拠点として重要な役割を果たしています。また、雄大な富士山麓には富士急ハイランドやゴルフ場などの施設があり、東京から日帰りで遊びに行ける観光地としても人気です。
史跡や観光施設を訪ね歩くのもよいですが、夜は酒場めぐりを楽しんでみてはいかがでしょう。ハタオリの街としてかつて栄えた名残が残る規模の大きな歓楽街があり、いくつかの老舗が変わらず暖簾を掲げています。新宿のゴールデン街のような細い路地一帯をリノベーションし、若い人が始めたバーなどが立ち並ぶ「新世界乾杯通り」も人気です。
そんな富士吉田で恐らく最も渋い店構えで、そして驚くほど流行っているお店が今回ご紹介する「大衆割烹 蔵前」です。
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往時の賑わいを感じる立派な商店街が何百メートルも続く富士吉田。人通りはかなり少ないですが、営業中の一部のお店には地域の方が毎夜集い賑わっています。
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地方の飲み屋街は道には人が居ないのに、暖簾の向こう側は満席の賑わいということが多々あります。蔵前もそんな一軒。トタン張りの建物は日中は「ここ、やってるのかな…」とすら思える建物ですが、夜になるとにぎやかな声が聞こえてきます。
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多くの酒場を訪ね歩いてきた筆者も最初は店先でちょっぴり躊躇しました。それが今ではすっかり好きになり、通いだして3年。富士吉田に来たら必ず顔をだすお店です。
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標高約800mの富士吉田は十分に山の町。ですから、酒場の食材もそんな土地柄が反映されていて、看板料理はどじょうとサワガニ、きのこ類、そして焼鳥です。
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対象を中心に家族で支える個人店。厨房に向いたカウンターが特等席で、常連さんが今宵もずらりと揃い踏み。後ろにはテーブル席があり、こちらも作業着姿の地元のおっちゃんが宴会中。さらにお店の奥には座敷があり、こちらも観光業風の皆さんでいっぱいです。
何度訪ねても、他所から来ている人は私一人。地域に根ざした酒場を訪ねるのは、観光地巡り以上に町を知れる、そんな気がします。
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夜は夏でもひんやりする富士吉田。それでも一杯目はビールがイイ。ということで乾杯!
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樽生ビールはキリン一番搾り(中580円)。お酒は1合300円。酎ハイ類は390円。メニューはこの通り、すべて壁に貼られているので店内をくまなく見渡さないと、「柳川鍋があった!気づかなかった!」ってなります。
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どれも手頃な価格でボリューム満点。おすすめメニューは、沢ガニ(400円)を筆頭に自家製水餃子(480円)や肉豆腐(500円)など。海の魚もちゃんとあります。刺身人気No.1はまぐろ。山梨県は一人あたりのマグロ消費量が全国トップ3に入る、まぐろ大好き県ですもんね。
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活ガニをそのまま素揚げにして軽く塩をふって出来上がり、沢ガニ。東京ではあまり見かけないおつまみです。口を怪我しないように慎重に殻ごといただきます。小さくてもカニはカニ。お酒を誘います。
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酎ハイ(390円)の焼酎は甲類と乙類(本格焼酎)、どちらも選べます。酎ハイならぬ酎水(360円)というのがあるのも面白いです。焼酎水割りを酎水と呼ぶのは初めて聞きます。
甲類は宝、乙類は二階堂か黒霧島。そしてかなり濃い目。
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名産の山芋を細長く切った山芋そうめん(380円)。刻みネギ、のり、めんつゆにわさびと、見た目はほぼおそうめん。素朴な味ですが食感が楽しく箸が進む一品です。
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ひとつひとつが大きく、大将が丁寧に焼き上げる焼鳥・もつ焼き。
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濃い口なタレをまとったカシラ。ジューシーでなかなかに美味しいです。
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人気の手羽先は、通常のタレとは別にちょっぴり甘めの味付けが塗られていて、山椒をふりかけていただきます。
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常連さんたちが一見でも暖かく受け入れてくれる楽しい雰囲気のカウンター。お店の方の緩急ある笑いが交じる接客も軽快で、お酒が進みます。
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〆のタイミングで景気よく上撰 白鶴 生貯蔵酒、300ml飲みきりビンを開けてしまい、もう今夜はここにどっぷり浸ることにします。なめこおろしでさっぱりとして、今夜はまだまだ飲みますよー。
富士山駅から徒歩500mほど。街灯がほとんどない道を歩くのですが、その先にぼんやり灯る黄色の看板と、店の外と中では大違いの賑わいに、まるで夢を見ているようです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材時期/2020年2月以前)
蔵前
0555-23-5251
山梨県富士吉田市松山1-11-21
17:00~22:00(水日定休)
予算2,500円