東急目黒線沿線でおそらく最も酒場が密集している町、武蔵小山。山手線の目黒駅からたった2駅なのに、どこか懐かしい私鉄沿線の風景が今も残り、人情あふれる居酒屋が暖簾を掲げています。
武蔵小山の酒場の特徴をひとことで言うならば「新旧入り交じる町」ではないでしょうか。昭和30年代から続く老舗もあれば、若い人がはじめた人気の立ち飲み酒場もあります。
明るい時間から営業しているお店もあり、一日梯子酒をしていても飽きることがないこの町に、新たな選択肢「鰻立ち飲み」が誕生しました。
今日は、鰻で飲める店、2019年11月に開業した「梅星」をご紹介します。
夕暮れ近づく武蔵小山は、駅前広場に居るとなぜだかそわそわします。早く飲みに行きましょう。
梅星という店名は、鰻料理のお店にしては独特なニュアンスがありますが、むしろ覚えやすいといいますか、親しみを感じます。2011年に誕生した武蔵小山の人気もつ焼き店「豚星」の新業態で、場所も豚星から目と鼻の先です。
豚もつ焼きの専門店は数多くあれど、鰻串のお店はまだ少ないです。ただ、歴史をたどれば渋谷や新宿界隈で戦後直後に鰻串屋台が多かったことがあり、酒の肴として昔から身近な存在だったと思います。
店はカウンター一枚を挟んで厨房と飲食スペースをわけ、それが店の奥まで続いています。全席立ち飲みで、最近流行りの「ちょい飲み」を楽しむ人々が軽く飲んでいく姿がみられます。
ビールは豚星同様、キリンの樽生ハートランド(500円)。それでは乾杯!
赤枠の短冊に、魅惑の鰻料理たち。鰻の酢の物(うざく)、浅漬、煮込みに長根気、それ以外はほとんどが串焼きです。正肉に近いくりからは300円と、立ち飲み価格で鰻が楽しめます。もちろん、おつまみとして楽しむ鰻の代表格、白焼きや蒲焼きもあります。
お店のおすすめは、鰻アラ煮込み豆腐(350円)。関西の鰻屋さんでみかける「半助豆腐」が、ここ武蔵小山で味わえます。
関西は鰻を頭ごと焼くため、鰻の頭がアラとしてでます。これを半助と呼び、豆腐やネギといっしょに甘く煮込みます。梅星の「鰻アラ煮込み」はそれに非常に近い味で、頭をしゃぶるように食べると濃厚な鰻の旨味が味わえます。あっさりとしているようで、食べていると鰻の旨味がじんわり伝わる、素敵な一皿。
辛口トマトハイ(400円)。鰻には清酒が一番かもしれませんが、立ち飲みですから自由に飲みましょ。開け広げた入り口から入るムサコの風が心地よく、気分は屋台飲み。
炭火で丁寧に焼き上げる鰻串。1本から注文が可能です。左からくりから(300円)、短尺(350円)。正肉はこの2つで、あとはエリ、キモなど鰻を捌いてできたアラ、鰻版の”モツ”のようなもの。
焼くのに5分少々時間が必要なので串の前にアラ煮込みやカルシウム(鰻の骨)などをつまみに頼むのが安心です。
ところで飲み物メニューにある「バーモントサワー」(450円)が気になります。一体何でしょう。さっそくオーダー。下町の酎ハイか、はたまた、元気がハツラツしそうなエナジー系か。
答え合わせ。正解はその名の通り、バーモント酢。はちみつベースのコンクで、クエン酸サワーをより複雑にしたような味わい。飲料メーカー寄りではない、レックという会社の商品。初めて飲みましたが、これはなかなかのエナジードリンクです。
地元の方も、飲み歩きついでに立ち寄る方も、みんな一列に並んで鰻片手に一寸一杯。楽しい酒場がまたひとつ増えました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材日/2020年1月17日取材)
うなぎ串 梅星
03-6421-6359
東京都品川区小山4-9-1 1F
17:00~23:30(日定休)
予算1,900円