曙橋「ととや」 大人がくつろぐ荒木町で、老舗の酒場に癒やされる

曙橋「ととや」 大人がくつろぐ荒木町で、老舗の酒場に癒やされる

2019年7月31日

新宿駅から都営新宿線で2駅。今回は荒木町からとっておきの酒場「ととや」をご紹介します。

荒木町は江戸の頃は、美濃国高須藩藩主の上屋敷があったところで、大きな窪地のある地形を活かした立派な庭園があったそうです。明治になってこの庭園は景勝地となり、荒木町に集まる人々を楽しませる花街が形成されていきました。

1980年代まで続いた花街は、大きな再開発がなかったこともあり今も名残りがあります。東京のまん真ん中とは思えない街並みに初めて訪ねた頃は驚きました。

大人が楽しむ上品な飲食店街。新宿や四谷とも違った風情を楽しみませんか。

荒木町の最寄り駅は、都営新宿線の曙橋駅。ここから新宿通りまで、ひたすら緩やかな登り傾斜となっていて、そこが荒木町の飲食店街です。

新宿通り側から曙橋方向をみるとこの通り。高低差のある立体的な飲食店街には不思議な魅力を感じます。

金丸稲荷社は、上屋敷があった江戸時代から続く土地の神様。周囲には大小様々な料理屋やバーが立ち並んでいます。

歴史や地形的要素に加え、荒木町の魅力を一層引き立ててくれるのは、この石畳の路地の存在です。縦横、ときには桝形に折れ曲がり、提灯の光の中をとぼとぼ歩いていると、知らない世界に引き込まれるような気分になります。

ととやは、そんな荒木町の老舗です。今年で47年目、創業は1972年。刺身や炙りもの、大皿料理でもてなしてくれる酒場です。「荒木町の飲み代はピンからキリまである」、なんて昔の人は話しますが、ここととやは3千円くらいでお腹いっぱい楽しめる大衆的な一軒。

笑顔が素敵な初代大将と、支える皆さんが迎えてくれます。寿司店のようなパリっとした空間に飴色の明かり。こういう場所が筆者は大好きです。カウンターと奥にグループ用のテーブル席という配置。ひとり、ふたりは特等席のカウンターに通してもらえます。

お酒のメニューはありません。ビールは瓶のみ。日本酒は神鷹、焼酎は甲乙あって、割材でホッピーや炭酸も置いています。それでは、乾杯!

突き出しは平目刺し。一杯目にあわせて出される突き出しから刺身というのが、たまりません。

一品目には名物の牛すじ煮込(400円)。甘く煮込まれて旨味は濃厚。クセはなく、コク深く味がしみた豆腐もよい塩梅です。口に含むととろっと広がる牛の脂は、ビールを誘うこと間違いありません。

黒板に書かれた今日の品書き。質がよいと評判の刺身や、炭火焼き、酒場の定番と揃っています。品数はしぼられていますが、どれひとつとして無駄がありません。季節のメニューが加わるので楽しみです。

刺身は盛り合わせも可能です。今回は甘海老(600円)をお願いしました。弾力があり、兜の中のねっとりとした味噌まで美味しいよい海老です。

神鷹は明石・江井ヶ嶋酒造の歴史ある銘柄です。江井ヶ嶋酒造といえば、ウイスキーやワイン、甲類焼酎も手掛ける大手ですが、名門神鷹はやはり美味しいお酒です。銘柄は神鷹のみ。樽酒、冷や酒、お燗酒の3種類。

2合徳利で燗をつけてもらうのもおすすめです。

備長炭でじっくり焼き上げた、小名浜の伴助のさば(800円)。

引き締まった身は、それでも箸をいれると驚くほど柔らかく、そしてじゅっと汁が滲み出てきます。塩味控えめで旨味が濃厚。これとぬる燗の神鷹があれば、もう何もいりません。

夕暮れの荒木町の木漏れ日が納まり、静かに夜を迎えたこの界隈。風情がまたお酒を美味しくしてくれます。

ピーマン(300円)をささっと焼いてもらい、口の旨味をほどよく戻したところで、さらにきゅっと日本酒を楽しむ。いい時間です。

両隣の席の方と、一期一会の食べ物話をゆっくりしたペースで楽しみつつ、気づけばあっという間に1時間が過ぎていました。大満足です。

荒木町は二軒目、三軒目を探るのもまた魅力。今日はこのくらいで、ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

ととや
03-3357-3319
東京都新宿区荒木町10-17
17:30~22:00(日祝定休)
予算3,300円