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玩具の町として栄えた立石。下町人情が息づき変わらぬ昭和なムードに、”あの時代”を懐かしむベテランさんだけでなく、古くて新しいを求める若い人たちも惹きつけられています。
駅周辺には長く続く飲食店や甘味処が数多あり、この街を尋ねる人の多くは、そんな昭和から続くお店へと吸い込まれていきます。
そんな立石に、どこか懐かしくて、そしてちょっぴり今風な素敵な酒場が誕生しました。美味しいお酒と巧みなおつまみで楽しませてくれる、そんなノンベエの夢を具現化したようなお店「ブンカ堂」です。
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昔ながらのアーケードや横丁が残る立石。京成電鉄押上線がゴトゴトと行き交う踏切にも味わいを感じます。昔はどこにでもあった私鉄駅前の光景も、最近は近代化の波で消えていきます。
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京成立石駅の光景もそろそろ見納め。京成押上線の高架化工事が長年行われてきて、京成曳舟も立体化が完成、残すは立石のみとなりました。そして、いま、立石駅もすでに着工中です。
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そんな変わりゆく立石で、2018年12月に開店した「ブンカ堂」。店主の西村さんのご両親、ご祖父母が立石で営まれていた「文化堂」という玩具店が店名の由来だそう。立石で生まれ育ってきた西村さんが開いたお店は、連日地元の人々が西村さんを慕って集い賑やかです。
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コの字のカウンターのみで、10人ほどでいっぱいになるコンパクトなお店。西村さんを中心にお客さん同士の会話も広がるちょうどいい大きさです。コの字はお客さん同士顔を見て話ができて、一期一会の会話も弾みます。
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まずは一杯目。樽生ビールも気になりますが、そんなコの字でみなさんが飲んでいる赤い酎ハイに注目。ジントニックにトマトスライスをいれたもので、これが爽やかでたまらなく心地良い味です。あ、先に飲んじゃいました。改めて、乾杯!
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飲み口の薄いグラス(※うすはりは商標です。)は、舌にスマートに流れてくるので、非常に繊細な味が楽しめます。トニックウォーターとトマトの酸味が引き立ち、二軒目でもおつまみを誘われます。
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樽生はアサヒのプレミアム熟撰と琥珀の時間(600円)、ウイスキーにサワー(400円)、カクテル(650円~)と並んでいます。
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日本酒は純米酒、ワインはヴァンナチュール。ともに自然派にこだわって選ばれた銘柄たちです。他のお店に出向いて日本酒の出張提供を行うこともある西村さん。筆者も、御徒町の高架下にある中華料理店で西村さんと出会いました。
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あれもこれも、みんな食べてみたくなる、これぞ酒の肴。ホタテの酢味噌がけで日置桜、豚バラの生姜焼きといづみ橋…、うーむ…と悩んでいるこの瞬間がとっても好きです。
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発酵ソーセージ(400円)。マーマレードを軽くつけていただく自家製ソーセージ。香味高く濃厚、発酵具合はまだ若くとも、その余白に日本酒をはめ込みたくなる素敵な味わいです。
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純米蔵といえば「新亀」と挙げる人も多い埼玉・蓮田の酒蔵。芳醇な味は、こうして皆さんでちびちび飲む空間にぴったり似合うお酒だと思います。正一合のお燗酒をきゅっと。味をわかりやすく言うならば、玉露のお茶のよう。
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あわせるおつまみは、まだジューシーでぽくぽくした「うの花」。炊きたての五目ご飯のよう。その余韻にお米のかわりにお燗酒を口に含んで、ぼんやりいい気分です。
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続いて、ワインを。グラス1杯750円から。赤、白、ロゼ、泡で種類豊富に揃えていて、こんな味で…と相談して用意してもらう流れ。
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こんなのでどう?と出していただいたのは、 カラブレッタ ネレッロ・マスカレーゼ ヴィーニェ・ヴェッキエ(Calabretta Nerello Mascalese Vigne Vecchie)。イタリアのIGT(地域特性表示ワイン)で、このネレッロ・マスカレーゼはシチリア東部・エトナ火山の土着品種。やや重めで全体的にはバランスがよく、熟成感が楽しいです。
こんなワインがぽんと出てくるあたり、甲類焼酎の多い立石にあって違ったベクトルなのがおもしろいです。
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大手玩具メーカーの本社もあるおもちゃの町・立石の玩具店「文化堂」の3代目は、いまも大人を楽しませる素敵な商品を揃え、街の活気の一翼を担っていらっしゃいます。人柄がとても素敵で、いくらでもこの席に座っていたいと思わせてくれる良き空間。ほんわかとして、ココロがまるくなりました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | ブンカ堂 |
住所 | 東京都葛飾区立石4-27-9 |
営業時間 | 月~土、祝前日: 15:00~翌0:00 (料理L.O. 23:00 ドリンクL.O. 23:00) 日、祝日: 15:00~22:00 (料理L.O. 21:00 ドリンクL.O. 21:00) 月曜~土曜日は24時まで、日曜、祝日は23時まで営業しております。 定休日:不定休 |
創業 | 2018年 |
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