雲仙「福富」 温泉街の拠り所。深夜の皿うどんにほっこり。

雲仙「福富」 温泉街の拠り所。深夜の皿うどんにほっこり。

火の国・九州。日本を代表する温泉街が集まるこの地には、また魅惑的な温泉酒場も多いです。

温泉街に宿泊するとき、皆さんは旅館やホテルの食事だけで満足されますか?途中、少し抜け出して夜の街に繰り出したいと思うこと、ありませんか。温泉街の魅力は、夕暮れ後の探検だと思っている筆者、この日も旅館を抜け出して、地元密着の酒場を目指しました。

ここは長崎を代表する温泉街・雲仙。日本最古の国定公園の中にあり、豊富な湯量を誇る名湯。雲仙の名は、「おんせん」がなまって「うんぜん」となったのだそう。

 

温泉旅館が密集しているわけではなく、徒歩で歩ける程度の距離で点在しており、その間には雲仙地獄が広がっています。

 

立ち込める蒸気は地獄の遊歩道だけでなく公道をも包むほど。日中の光景とは違った、より恐ろしい雰囲気です。

雲仙温泉は島原半島の中心にあり、JR諫早駅から路線バスで80分ほどの距離。または島原鉄道の島原外港から路線バスで45分です。以前雲仙を訪れたときは、島原外港から熊本までフェリーを利用しましたが、このルートもなかなか便利です。

 

そうしてたどりついた「福富」。かつての商店街だった場所で、いまも残る食堂です。創業から60年以上。年配の御婦人お一人で切り盛りされています。

 

「結構各地から通ってくれるのよ」と話す女将さん。ご主人と二人で店をはじめ、動けるうちは店を続けると、長年赤ちょうちんをともし続けている方。雲仙はタクシーもなく、麓の町まで距離があるため、温泉街で働く仲居さんや料理人さんは住み込みの生活をされているのだそう。山奥で家族と離れて暮らす彼ら・彼女らにとって、雲仙の母として親しまれています。

 

布団のあげさげ、夕食や朝食の準備で忙しい生活を送る人にあわせ、お店の営業は主に深夜となるそう。昔は朝まで賑わって、そのまま布団を上げに出勤していく人を見送ったのだそう。現在でも、高齢の女将さんながら、深夜2時ごろ、お客さんがひくまでのれんを掲げています。

 

料理はおでんと、漬物などの小鉢。そして皿うどんやちゃんぽん。標高約700mの雲仙温泉街は一年を通して夜はひんやりします。この町で働く人はまかないを食べたあとのちょっとしたつまみに、観光客にも郷土色あるおでんはちょうどいいです。長崎の地ダコなどをつまみに、壱岐ゴールド(玄海酒造)のお湯割りをちびりと。

 

しいたけ、山菜の宝庫の雲仙。日によっては肉厚のぷりぷりしいたけなども楽しめます。

 

お子さんは東京圏で暮らしているそうで、ときどき東京にもいらっしゃるのだそう。お孫さんのお話を笑顔いっぱいで話す女将さんの姿は、その場でこの時間を共有しているだけでほっこりとさせてくれます。

せっかくだから、皿うどんを頂きましょう。女将さんひとりで切り盛りされていますが、ご主人は中華が得意な料理人だったそう。いまは女将さんが作れる料理だけに絞ったそうですが、この具沢山の餡は絶品でした。

 

有名なちゃんぽん・皿うどんのお店で食べるのもよいのですが、温泉街で働く人たちと肩を並べ、小さなカウンターで焼酎片手にのんびりつまむ皿うどんのほうが私向きです。

夜飲める場所はさほど多くない雲仙。この地で働く人の多くが顔見知りの女将さんもまた、温泉街を支える素敵な裏方さんです。舞台裏でちょっと一献、傾けてみませんか。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/九州旅客鉄道株式会社)

 

福富
0957-73-3561
長崎県雲仙市小浜町雲仙375
19:00~25:00頃(不定休)
予算1,600円