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以下、旧店舗記事
日本酒ブームです。いまは少し落ち着いて、改めて若い世代にも根付いてきた頃でしょうか。日本酒ブームは幾度となくおきて、その時々に興味を持った世代が、今もそのときに好きになったお酒を、好きなタイプのお店で楽しんでいます。
東京駅八重洲口前で1939年(昭和14年)に創業した酒の店「ふくべ」は、日本各地のお酒を並べた地酒が飲める元祖と呼べる存在。それ以前に創業した東京の居酒屋は、酒は灘一本ということが多いです。
居酒屋の以前から酒屋として店を開き、長きに渡ってこの街に「酒」を潤わせてきた「ふくべ」。ふくべとはヒョウタンの別名で、言わずとしれた酒器です。当時の酒屋といえば通い徳利が当たり前でしたから、酒屋から居酒屋になるにあたり、「ふくべ」とは洒落ています。
東京駅から徒歩数分の場所にあり、東京駅を利用する際の立ち寄り居酒屋として重宝されています。客層は地元の会社員を中心に、東京駅から新幹線で帰宅する出張者の姿もみられます。やはり場所柄といいますか、スーツ姿の男性が中心です。
加えて、少しずつですが若い人が増え始め、ロマンスグレーなお父さんたちに混ざり、若い日本酒好きの男女が徳利を傾けています。
最近の日本酒は、造りに個性を効かせたものがクローズアップされていますが、昔の地酒といえば、やはり本醸造。ふくべに集う酒好き紳士は皆さん本醸造世代。かくいう私も、飲み屋で年上に囲まれて育ったため、酒といえば本醸造です。
毎日飲んでも飲み飽きない普通酒。キラキラしていないからこそ、じっくり美味しい普通の純米酒。ふくべの40種あるお酒はベテランのノンベエをくすぐるラインナップです。全国各地、まんべんなく揃え、全国から出てきて東京で働く人々に、故郷を味を提供しています。
縄暖簾が素敵な昭和39年築の建物。店は二部屋に分かれており、入って正面は湯煎でつける酒燗器や菊正宗の四斗樽が鎮座するカウンター席。大将も立つカウンターの特等席には酒好きが集い、みんな大人しく静かに猪口を口へ運んでいます。常連も一見も公平です。
ビールはアサヒスーパードライ(大びん650円)。銘々盆に徳利、ビアタン、小鉢に箸が並び、冷えた瓶が一寸の差で届けられる。高揚する一瞬です。乾杯!
長い店の歴史で築かれた仕入れのルートがあり、いまも毎朝、築地市場へ仕入れに行くと聞きます。
ふくべは、近海ものの鯵の干物、しめ鯖、焼きたらこなど、定番の料理(どれも600円前後)がありますが、私はいつもおでんから。
盛り合わせで、豆腐や大根など一通りやってきます。かつおと昆布の合わせ出汁でコクがあり、しっとりした余韻にビールや日本酒が進みます。3時間以上かけて下ごしらえをするそう。変わらぬ東京の味です。
ビジネス街とは思えない、ゆっくりとした時間が流れる店内。酒好きが集い、仕事を忘れてここではみんなが素敵な酔っぱらいさん。
脂をにじませた肉厚の鯵。シンプルながら、酒を飲ませる一品。腰の筋肉が和らぎ、「ふぅ」と声がでる。酒場っていいな。
酒はこだわりの正一合。燗をつけてもらうもよし、常温で飲むもよし。思い思いの酒を傾け心地よいひととき。
種類が豊富でいろいろ飲みたいところですが、私のおすすめは、菊正宗(550円)。カウンターの奥に鎮座した四斗仮巻樽の下部についた栓を抜けば、「とっくん、とっくん」というリズムで樽酒が流れ出てきます。漏斗で受け止め、それを徳利へ。
キクマサの樽酒は、予めメーカーの生産設備で瓶詰めされたものが一般的ながら、ここでは注ぎたてが味わえます。
お腹にたまらない酒の肴が揃うふくべ。たたみいわし、くさや、はんぺん焼き。どれも昔から変わらない酒の友です。
一人でしっとり酔いを楽しむもよし、仲間と労をねぎらい注ぎあうもよし。酒を中心にした癒やしの空間を楽しみましょう。店主の北島さんは会社員として定年まで勤め上げてから先代の暖簾を引き継いだ方で、集まる会社員にとっては親しみやすい先輩です。
タイムスリップしたような酒の店で、皆さんも癒やされてみませんか。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)