三ノ輪「ますみ寿司」 料飲店は歴史の玉手箱。長き歴史の末に今がある

三ノ輪「ますみ寿司」 料飲店は歴史の玉手箱。長き歴史の末に今がある

三ノ輪駅から浅草方面に南下すると、「吉原大門」という都営バスのバス停がありますが、まさしく吉原遊郭の入り口があった場所です。現在も交差点名や路線バスのバス停名として残っているのがおもしろい。

300年以上続いた吉原遊郭が与えた食文化・歴史は大きく、隣接する山谷も吉原があったからこそ生まれた存在。

吉原大門からすぐの場所にある一軒の老舗の寿司屋「ますみ寿司」がありますが、この店は、吉原の歴史をいまに残す玉手箱のような存在です。創業は1958年(昭和33年)。同年、吉原遊郭が閉鎖されているのですが、同じ年に意味があります。

 

もともと、ますみ寿司は寿司屋以前は遊郭で貸座敷「マスミ」として営業していましたが、遊郭閉鎖を前に家業を転身。飴やなど職業を転々としたのち、現在の寿司屋のもととなる屋台寿司を遊郭内ではじめたのがはじまり。

 

初代は銀座亀八寿司で修行された方で、現在は二代目が暖簾を守ります。浅草から近いこともあって、俳優さんや芸人さんのお客さんも多かったそうで、とくに渥美清さんが常連だったそうです。

 

もともと屋台から始まったこともあり、店舗でも立ち食い寿司屋として開業。

現在は着席なのですが、カウンターで座って飲んでいると、そういわれてみれば違和感が。お話を聞いていると、「カウンターの一枚板がそのまま外れてるんだよと」、蛇口が並ぶ手洗い台を少しだけ見せてくれました。

現在営業中の古い立ち食い寿司でも手洗いがついているお店は多いです。食前食後に手を洗うための蛇口が用意されています。ここもその昔は同様のシステムだったそうですが、時代の変化で着席型としたそうです。。

 

タイル張りの立派な内外の造りは、遊郭の建物をつくる大工さんによるもの。遊郭がなくなるから、このときに建つ寿司屋に遊郭建築の名残を残そうということで建てられたのだそう。

船底天井にタイル張りの壁や玉石の床。”遊郭風”といえばそうなのですが、当時の職人が記録としてつくったものだから、これも本物と言っていいのではないでしょうか。

大工さんの名前や組の名が書かれた額も立派で、街の普通の寿司屋とはまったく違う風格が漂います。

 

この扁額は貴重。遊郭の寿司屋らしい顔ぶれが並んでいます。

 

吉原という街について、これほど”動態保存”されているお店も珍しいのではないでしょうか。山谷の大衆酒場もいまやすっかり観光地化していますが、まだまだこちらは知る人ぞ知る存在。寿司はリーズナブルで、軽くつまむのにもぴったりです。

 

この地で生まれ育った大将や職人さんのお話を肴に、キリンクラシックラガーの杯が進みます。

 

歴史ある飲食店が持つ街の残り香。吉原という土地にあるだけあって、それはそれは濃くて、いまの時代の私たちにとっても興味深い世界です。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

ますみ寿司
03-3873-3872
東京都台東区千束4-38-12
11:30~14:00 17:00~23:00(火定休)
予算2,500円