新幹線開業前夜、福井の駅前で飲むならば『おたん』。お昼から営業しており、越前の海の幸を中心に地元の料理でもてなしてくれます。
福井駅前の名酒場
しばらく来ない間に驚くほど変化した福井駅前。路面電車の福井鉄道もオシャレな電停に生まれ変わり、ドイツ・シュツットガルトからやってきたレトラムが走ります。北陸新幹線の工事も着々と進行中で、そんな中でJR福井駅周辺は一足お先にお迎え準備を整えたようです。
京都から北陸本線の特急サンダーバードで90分、金沢からも60分とアクセス良好。関西の文化圏を感じる言葉遣いや街並みですが、日本海側ならではの味わい深いしっとりとした繁華街が広がっていて、他の街にはない魅力があります。
そして何より、福井といえば食材の宝庫。冬の越前ガニをはじめ、夏の若狭ぐじ、初秋の甘エビに春の若狭河豚と、酒の肴は一年中名題役者が途切れない。繁華街の高級な寿司店や九頭竜川の河口・三国港まで魚を求めてローカル線えちぜん鉄道の旅も良いですが、駅周辺の郷土を味わう老舗酒場を訪れるのもまた楽しい。
駅前では早い時間から営業する老舗が数軒あり、夜には大衆割烹も多数灯りをともしますが、まずはここ「おたん」へ立ち寄ってみてはいかがでしょう。駅前の食堂として開業し、今年で創業70年を向かえる老舗です。営業は午前11時からと早く、地元の昼酒愛好家たちが早い時間から地場の美味しい肴をつまみに地酒を楽しんでいます。
駅前の昔ながらの食堂街は今年の3月、複合施設「ハピリン」に再整備されました。おたんは、もともとのこの場所で営業していたこともあって、「ハピリン」の中で引き続き営業中。駅前の再開発でも老舗の灯りが消えなかったのは実に嬉しいこと。
店は新しくなっても老舗のそれを感じる渋さはそのまま。北陸の酒場といえばおでんが定番。鍋を中心に厨房を囲むようにL字のカウンターが配され、テーブル席が数卓。地元の常連さんが一人で刺身をつまみにお燗をきゅっと飲んでいたり、明け番風の男性二人が「いつも仕事明けはここで飲む」という感じで瓶ビールを注ぎあっています。
カウンター奥には小学生くらいの女の子が。スタッフの娘さんのようで、馴染みの常連さんとすっかり若女将的なトーンで世間話をしながら宿題をやっている、あぁ、なんてほっこり。
品書き
おでんは100円から。この界隈では定番の店で、東京だったらパルコで買い物したあとパンケーキを食べに行くような歳の若い女性二人も、ショッピングバッグ片手にお昼ごはんがてら立ち寄り、「竹の子は外せない」なんて会話をしています。旅先のこういう場に居られるのが大好きです。
定食や丼ぶりものもありますが、昼からすべての肴メニューが提供可能。ショーケースにはその日市場から仕入れてきた魚介類がぴちぴちと並ぶ。
おすすめは、鯖寿司など。ぐじなどの主役級もいいですが、やはり福井の庶民の味方は鯖ですね。
料理は300円から1,000円ほど。軽く摘む程度なら、お昼どきは定食をもらって、それにお銚子を一本つけてもらって、ごはんを後出しにするというのもいいでしょう。
アットホームな雰囲気で海の幸とおでん
ビールは大びん(600円)がキリンラガー、生ビール(500円)でアサヒスーパードライ。渋いカウンターでは、生ビールよりも瓶のほうがキマりますね。お通しの枝豆をもらって、では乾杯。
福井の甘エビの旬は春と秋、透明度のあるつややかな朱色、ねっとりとした旨味に驚くほど甘い余韻が特長。鮮度はもちろんのこと、東京で一般的に出回っているものとは大違い。やはり本場で食べるのは素晴らしい。かなり大きく濃厚なので一人で6尾も食べればくらくらしてきます。
「よそは以外では生姜などを入れたさらさらのつゆで煮込むでしょう?うちの鯖煮は甘くとろっと煮ているんだよ。」と女将さん。そんな話を聞いてしまえば、もう食べずに帰れません。福井の鯖は通年たべごろ続き。脂の乗った引き締まった身から濃厚な味が脂とともに広がります。ねっとり美味しい照り煮、こんなのでてきたら日本酒を飲まないとばちがあたります。
店の看板にも書かれた一富士がここの定番酒。小徳利350円と手軽に飲める価格が嬉しい。福井市の酒蔵・西岡河村酒造がつくるほぼ地元専用的な銘柄で、優しく丸い味。
これに合わせる肴として、越前名物の汐うにを。バフンウニの卵巣を塩で漬ける江戸時代から続く地元のつまみで、深くねっとりとした海の味が楽しめます。高級品でおみやげで一個買っていこうとすると大変ですが、こうして駅前の老舗で地酒のつまみに”ちびちび”やれるのはいいもんです。
カウンターにはそのときどきの旬の食材やオススメが並びます。定番のばってら寿司も出番をまって整列中。冬になれば越前ガニを並べるとのことで、次の冬には、もう一度福井を訪ねたい。
とにかく食材がいい、そして老舗ならではの絶妙な接客と、温かな人付き合いを感じられる福井の酒場「おたん」、素敵なお店です。東京や大阪で飲むのもいいけれど、ときどきは鉄道に乗って地方の飲み屋を巡る旅にでてみませんか。きっと素敵な酒場に出会えるはずです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
おたん
0776-28-2502
福井県福井市中央1-2-1
11:00~23:00(木定休)
予算2,000円
店名 | おたん |
住所 | 福井県福井市中央1-2-1 ハピリン 1F |
営業時間 | 営業時間 11:30~23:00 日曜営業 定休日 月曜日 |
開業年 | 1946年 |