きらびやかで賑わいのある高島屋やなんばパークスに囲まれた南海なんば駅から各駅停車で数駅。南海電車の荻ノ茶屋駅の周辺は、大手私鉄のターミナル駅から数駅という場所にありながら、まるで別世界。駅から伸びるアーケードを進んだ中ほどにある花の山が今回の目的地。平日の昼間も不思議なお父さんたちがフラフラ運転の自転車で行き交っていたり、突然声かけられたりする場所でもあるので、女性の一人歩きは今でもやや厳しい場所。
ですが、それでも目指したい酒場があるのです。朝9時からやっている昼酒スポットで、名物料理は鍋物の「花の山」。場所が場所だけに客層も個性豊かな人が多い。勇気を持って挑戦してみましょう。
店主と奥さんのお二人で切り盛りしているお店。この場所にありながら、カラオケなどをおかずにぴしっとした空気になっているのは店主の人柄か。きっちりとした飲食店として成り立っていて、店そのものはどこの街にあっても繁盛する名酒場の雰囲気です。目を光らす店主と、温厚で笑顔がチャーミングな奥さん。絶妙なバランスです。
焼き鳥や刺身、煮物など美味しそうなものが出番を待っているショーケース。その向こう、壁には2台の液晶テレビが常にギャンブルチャンネルを流しています。競艇の映像が流れているのをぼーっと眺めながら、まずはお酒をもらいます。
日本酒は白鶴一級酒300円、ビールはアサヒスーパードライでダイビン440円、樽詰めチューハイは樽ハイ倶楽部で280円と、アルコール類は安いとはいえ、大阪の平均的な大衆酒場の値段ではないでしょうか。驚くのは、ここの焼酎で一杯160円なのです。氷入りのグラスに入ってきますので、あとは水をもらって好きに割って飲むわけですが、一杯160円でお酒が飲める…さすが西成。
では乾杯!
お刺身や焼き魚も200円前後と大変リーズナブルなのですが、一番人気は牛すき焼き鍋です。なんと350円。大手牛丼チェーンもびっくりの低価格です。牛肉、白菜に関西らしくお麩、豆腐、うどんが入った具だくさん。注文を受けてからボーダーが似合う店主が作り始めて、グツグツの状態で提供されます。
160円の焼酎と350円のすき焼きで済ませたら、たった500円ちょっとで収まります。ええ!!って感じでしょう。東京で「せんべろ」酒場を巡るのもいいけれど、やっぱり本場のパワーは半端ない。ちゃんと美味しい、ちゃんと食べごたえがある。実直な店主さんでどの料理も自家製がほとんどで手抜きがない。
早い時間から白い新聞と赤ペンを持った野球帽が似合うお父さんたちで賑わうお店。酒場好きとはいえ、この空間には「素敵な場所をほんのちょっとお借りする」という感覚で、そっとおとなしく使わせてもらい、場の雰囲気を壊さないような配慮も大切です。
鉄板に盛ってだされる野菜炒めや、独特な濃い目ソースで味付けされた焼きそばなど、鍋料理の他にも通う目的として十分な”主役”が多数そろっています。どうですか、そろそろ西成デビューしてみたくなりませんか。できれば、女性は男性と一緒にね。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
花の山
大阪府大阪市西成区萩之茶屋2-3-12
9:30~20:00(水・土定休)
予算1,000円