『男はつらいよ』の舞台、柴又帝釈天の門前町。歴史あるこの街には、鰻の名店が点在します。今回ご紹介するのは、天明3年(1783年)創業の「ゑびす家」。江戸川が育んできた川魚料理の食文化に浸りながら、休日の昼下がりからお酒を傾ける。そんな粋なひとときを過ごせる老舗です。
帝釈天への参詣者とともに歩んだ240年

京成金町線の柴又駅を降りると、そこはもう映画で見たままの世界。帝釈天へと続く参道は土産物屋や草団子の店が軒を連ね、まるで昭和でときが止まっているかのように思えます。
さて、この界隈は多くの店が日中の営業をメインとしていて、それでいてお酒も用意している店が多い。つまり、帝釈天の参道は知る人ぞ知る昼飲みスポットという考え方もできるんです。

目指す「ゑびす家」は、参道の入り口という絶好の角地に堂々と佇んでいます。創業は天明3年(1783年)。帝釈天の御本尊が再発見され、庚申信仰の流行で江戸中から参詣者が押し寄せた時代に、茶店を開いたことが始まり。

明治期に川魚料亭となり、現在の主屋は大正時代に建てられたもの。まさに柴又の歴史を今に伝えるタイムカプセルのような場所です。震災・戦災を乗り越えた店はやはり風情が違います。

手前は気軽に利用できるテーブル席、奥には池を臨む座敷もあり、様々なシーンで利用できる懐の深さも魅力です。

映画『男はつらいよ』では、第一作の撮影時に俳優陣の支度部屋として使われたというエピソードがあり、”フーテンの寅”ファンの聖地のひとつです。壁には渥美清さんの写真も飾られていますね!
江戸川が育てた川魚料理の文化を楽しむ

まずは、キリン一番搾りの生ビールをお願いしました。すぐに出してくれる「いたわさ」を肴に、まずは喉を潤します。

それでは乾杯!
鯉のあらい(750円)

鰻だけでなく、鯉料理があるのが江戸川に近いこの店らしいところ。迷わず「鯉のあらい」を注文しました。
薄桃色に輝く身は、一切の臭みがなく、ぴしっと引き締められています。
これは、湯通ししたあとに氷水で締める「あらい」という伝統的な技法によるもの。身の食感を最大限に引き出し、旨味を閉じ込めるのだそう。添えられた酢味噌が、鯉の淡白ながらも奥深い味わいを引き立て、爽快な余韻を残します。

悩むことなくお酒1本!川魚と燗酒の相性は格別です。
酢の物(750円)

鰻は注文を受けてからじっくりと蒸し、焼き上げるため、少し時間がかかります。その時間を楽しむべく、もう一品「酢の物」を。
これが実に贅沢。カニや海老、帆立の貝柱まで入っており、丁寧な仕事ぶりが伝わってきます。さっぱりとした酢加減が、燗酒をもう一杯と誘います。
ふっくらとろける、老舗のうな重

いよいよ、うな重の登場です。甘辛いタレの香ばしい香りが立ち上り、食欲は最高潮に。
ふっくらと蒸しあげられた鰻は、箸を入れるとすっと身がほぐれる柔らかさ。口に運べば、小骨を感じることもなく、とろけるような食感です。皮目もまた柔らかく、身との一体感が見事。ほんのりと感じる鰻ならではの苦みが全体の味を引き締め、甘めのタレと渾然一体となって口の中に広がります。

上品な出汁が効いた肝吸いも、鰻の濃厚な味わいを優しく受け止めてくれます。やはり老舗の鰻は美味しい。そう心から感じられる、満ち足りた時間です。
京成線で梯子酒もしやすい柴又へぜひ
柴又の歴史と共に歩んできた「ゑびす家」。帝釈天への祈りと、江戸川の恵み、そして映画が織りなす物語を味わうことができる稀有な一軒です。
美味しい鰻とお酒ですっかり満たされた後は、高砂・立石の飲み屋街へ向かうか、金町へ抜けるか。そんなことを考えながら駅へ向かう足取りも楽しい、柴又での休日を過ごしました。京成線沿線の下町グルメは深いんです。
ごちそうさま。
店舗詳細
- 瓶ビール大瓶 キリン・アサヒ 各700円
- 上うな重 5,200円
- うな重 4,200円
店名 | ゑびす家 |
住所 | 東京都葛飾区柴又7丁目3−7 |
営業時間 | 11時00分~17時00分 |
創業 | 1783年 |