天丼、蕎麦、寿司など江戸情緒あふれる食の宝庫、浅草。一方で、古くからハイカラな文化を受け入れてきた街でもあり、洋食の名店も数多く存在します。そんな浅草で、しみじみと美味しいカツカレーを味わいたくなったら、ここ『リスボン』は外せない一軒です。昭和から続く歴史を重ねた、凛とした空気が心地よい老舗洋食をご紹介します。
浅草六区の喧騒を離れ、昭和の洋食店へ

浅草寺の西側、浅草演芸ホールや浅草花やしきなどが集まる「浅草公園六区」。その賑わいの中心、六区ブロードウェイ商店街で静かに佇む洋食店が『リスボン』です。愛らしいコック帽のブタの看板が目印。
創業は1932年(昭和7年)。 ここもまた、食通で知られる作家・池波正太郎が通った店のひとつ。資生堂パーラーからリスボンまで、先生のテリトリーは広いですね。
戦前から続く名店とあって、奇をてらった看板もなく、その佇まいは実に穏やかで好感が持てます。

ガラス扉を開けると、「いらっしゃいませ」と物腰柔らかな女将さんが迎えてくれます。下町の家族経営の洋食屋さんらしいぬくもりが嬉しい。

店内は15年ほど前に改装されており、老舗にありがちな雑然さはなく、清潔感に満ちています。過度な装飾はなく、どこか老舗ホテルの朝食レストランのような、すっきりと落ち着いた雰囲気。 浅草の中心地とは思えないほど静かで、BGMがないのも嬉しいところ。調理の音や、他のお客さんの話し声が心地よく響きます。
ザクザク食感がたまらない、名物カツカレー

席に着き、まずは瓶ビールをお願いしました。銘柄はキリンラガーの中瓶。すぐに運ばれてくるのが嬉しいですね。 それでは、乾杯!
ビールを受け取ると同時に、名物のカツカレー(1,500円)を注文。奥の厨房でご主人が調理に取り掛かる様子が席から見え、カツを揚げる音が聞こえてくると期待感が高まります。

しばらくして、女将さんが運んできてくれました。これぞ日本の洋食というべき美しいカツカレーです。 たっぷりのカレーソースの海に、お皿の幅いっぱいの大きなカツが横たわっています。

カレーソースは、野菜や肉がじっくり煮込まれて溶け込んでいるのがわかる、とろりとしたタイプ。口に運ぶと、見た目以上にしっかりとした辛さが広がります。

これが甘みのあるカツの脂や衣と絶妙にマッチし、全体の味を引き締めています。

主役のカツは、一般的なカツカレーのものよりも衣がクリスピー。スプーンを当てると「ザクッ」と小気味よい音がするほどです。この揚げたての食感が、徐々にカレーソースと馴染んでしっとりとしていく。食べ進めるうちに変わっていく食感の変化も楽しみの一つです。

辛いものが比較的苦手な私でも、夢中で食べ進めてしまう絶妙なバランス。これはビールが進まないわけがありません。キリンラガーがもう一本欲しくなってしまいます。
メニューには、ケチャップで味わうクラシックな「カツライス」や、今では珍しい、中華野菜スープ風の「チャップスイ」など、歴史を感じさせる品々も。最近はマカロニグラタンも人気のようです。次回はそちらも試してみたいと思わせてくれる、奥深い魅力が感じられました。
浅草散策の合間に、心安らぐひとときを

流行を追うのではなく、創業以来の味を実直に守り続ける『リスボン』。文豪が愛したのも頷ける、確かな味と落ち着いた時間がここには流れています。 浅草の喧騒から少しだけ離れて、美味しい洋食で心を満たしたい。そんなときに、ぜひ訪ねてみてはいかがでしょう。
店舗詳細
品書き
- キリンラガービール中瓶 700円
- 日本酒 600円
- ロースカツセット 1,350円~
- ハンバーグセット 1,650円
- マカロニグラタンとトースト 1,300円
- カツ丼とチャプスイ 1,400円
- オムライス 1,050円
- カツカレー 1,500円
店名 | リスボン |
住所 | 東京都台東区浅草1-25-18 |
営業時間 | 11:00 – 14:30 17:00 – 19:30 火定休 |
創業 | 1932年 |