百年を超える歴史を持つ台東区・橋場の老舗『亀屋酒店』が、2024年から角打ち営業をスタート。落ち着きのある今風の内装に一新しつつも、味噌や店内精米の米を扱うなど、昔ながらの正統派酒屋としての矜持も大切にしています。三ノ輪・南千住・浅草の各駅からは徒歩20分と少し距離がありますが、それでも足を運びたくなる魅力が詰まった一軒です。
アパレルで磨いたセンスが、老舗酒屋をアップデートする

戦前の隅田川沿いには料亭街が広がっていました。向島花街が知られていますが、台東区側(右岸)にも点在していたそうです。。観音裏から日本堤にかけて酒屋が多いのは、浅草や千束といった消費地が近かったことに加えて、こうした料亭での需要が背景にあったのでしょう。
橋場(旧地名:浅草石浜町)にある『亀屋酒店』も、まさにそうした時代の空気を受け継ぐ一軒です。今回ご紹介する『亀屋酒店』は、現在の店主の曾祖母が本家・亀屋から暖簾分けしてはじめたお店。詳しい記録は残っていないものの、その歴史はすでに一世紀を超えるとされています。※最も古い記録は1945年のため、店の表記は1945となっています。

酒販免許の改定などにより、街のお酒屋さんの役割も変化してきました。そんななか、『亀屋酒店』もまた、時代の波に合わせて舵を切ることに。歴史ある橋場の酒屋としてのポテンシャルは、まだ十分にある。そう信じて家業を継いだのが、アパレル業界で働いていた4代目です。

倉庫として使われていたスペースをスケルトンから改装し、木材と白を基調にしたロの字カウンターを設けて、角打ち営業をスタート。飲酒スペースと小売コーナーを一体化し、訪れる人どうしが自然に言葉を交わせる、開かれた空間に仕上げました。

酒の品ぞろえは、現在のニーズに合わせて大幅に絞り込みましたが、昔から扱ってきた味噌と米の販売は、今も変わらず続けています。かつて、スーパーマーケットが登場する以前は、米や味噌といえば酒屋の扱う定番品でした。酒も味噌も、どちらも“発酵”の世界。つながりは深いのです。
こだわりの味噌は、近年このエリアに増えてきたマンション住まいの新しい住民からも好評。また米は、玄米で仕入れて店内で精米。精米機を備え、精米したての米を販売しているのも『亀屋酒店』ならではの特長です。
“通”だけの空間じゃない。角打ちの間口を広げる挑戦

それでは、角打ち(店内飲酒)の視点から、『亀屋酒店』の特長を見ていきましょう。
提供されるお酒は、生ビールや日本酒を中心に、4代目がとくに学んでいるワイン、さらに定番の焼酎やウイスキーまで幅広く揃います。

近年、こうした“ネオ角打ち”は全国的に増えてきましたが、総じて“尖った”アッパー志向のラインナップを打ち出すお店が多く、かつてのように「気軽に一杯ひっかける」スタイルがやや難しくなってきているのも事実です。

その点、『亀屋酒店』は違います。昔ながらの角打ち文化を継承し、缶ビールや発泡酒、RTD(チューハイなどの缶入りアルコール飲料)も扱っています。抜栓料も手頃で、たとえば缶ビールなら300円ほどで店内で楽しむことができます。
- 樽詰生ビール マルエフ:500円
- クラフトビール タップマルシェ:650円~
- 焼酎:500円~
- 日本酒3種類飲み比べ:1,000円


取材時のAセットは、奈良の銘酒・春鹿の同一蔵飲み比べ。同じ酒蔵で異なるタイプの酒を並べるのは、その蔵の考えやスタイルが見えてくるようで、個人的にもとても好きな楽しみ方です。こうした同一銘柄での飲み比べは、酒蔵見学施設や日本酒バーでは見かけますが、角打ちでは珍しい取り組みといえるでしょう。

選んだのは東北特集のBセット。どれも評判の高い銘柄ですが、『亀屋酒店』では正規販売店として仁井田本家から直接仕入れている「にいだしぜんしゅ」がオススメとのこと。

酒のタイプが異なる3種類。どれから飲むか迷ったら、ぜひお店の方に聞いてみましょう。

蔵の特長(風土・文化・酒造りの考え方)や、製法の違いによる風味の差などを、丁寧に教えてくれます。酒は、その味わいだけでなく、背景にある物語や情報も一緒に楽しむもの。専門知識を持つお酒屋さんだからこそ、そんな“対話”が自然にできるのです。
詳しい人と話しながら味わえる。これこそ、角打ちの大きな魅力といえるでしょう。


おつまみも色々揃っています。

店内で販売している乾き物や缶詰もお酒と一緒に楽しめるのは、レトロな角打ちと変わりません。

気になるおつまみ。金土日限定というポテトサラダがこちら。自家製のパンチェッタ(塩漬けした豚バラ肉)が混ざった贅沢感のある一品です。

穏やかな週末の午後。居心地の良さについ誘われて、「もう少し本格的に飲みたくなってきたな」と思い、3代目が気に入っているというアサヒ生ビール〈マルエフ〉を一杯。
このあたりは、かつてアサヒビールとの付き合いが深かったそうですが、今は特定のメーカーに偏らず、タップマルシェや黒ラベル、角ハイボールなど、大手4社のラインナップが揃っています。

店の外には、ペット連れでも立ち寄れるよう、簡易的な台が用意されています。隅田川からそよ風が吹き抜けるなか、浅草北部ののんびりとした住宅街の夕暮れを、生ビール片手に楽しむひととき。気持ちいい~。

取材はこれで十分なのですが、明るく上品で本当に居心地がよいので、もう一本。サッポロ生ビール黒ラベルの350ml缶を。1缶350円。嬉しいお値段です。ちゃんと銘柄に合わせたグラスも用意してくれます。

最後に一杯、なにか学びになるものをと相談したところ、「仁井田本家 穏 純米吟醸しぼりたて生」をだしてくれました。

絞り口からそのまま瓶詰めされているため、微炭酸。そして、酵母の力によってフルーティーで華やかに仕上がった一本。こうした、なかなか家では揃えにくい酒を、気軽に味わえるのは嬉しいことです。
『亀屋酒店』のある橋場は、どの駅からもやや距離がありますが、東京駅から浅草を経由し南千住駅へと向かう都営バス〈東42系統〉、あるいは台東区のコミュニティバス「めぐりん」の利用が便利です。
近くには、有名な老舗酒場「丸千葉」や、通好みの店が点在する観音裏もあります。散歩がてら立ち寄るのにもぴったりのエリアです。
角打ちファンはもちろん、近隣で酒場巡りを楽しむ方にも、ぜひ訪れていただきたい一軒です。
店名 | 亀屋酒店 |
住所 | 台東区橋場1-17-3 |
営業時間 | 11:00~20:00 月定休 ※不定休あり 公式Instagramを確認 |
創業 | 記録があるのは1945年から(おそらく大正時代創業) |