ワインに「ヌーヴォー」、日本酒に「新酒」があるように、ビールにも季節を味わう新酒が存在します。そのひとつが、キリンビールが長年にわたり発売してきた『一番搾り とれたてホップ生ビール』です。今しか味わえない、豊穣に感謝するビール。そのホップ生産地を収穫祭の様子とともにご紹介します。
日本一の生産量を誇る遠野
キリンビールの看板商品「一番搾り」は、愛飲家に限らず広く知られています。ですが、そんな「一番搾り」に季節商品があることはあまり知られていないかもしれません。
ビールの原料は、ホップと麦です。どちらも土から育つ自然由来の植物なのは言うまでもありません。ですが、キリンに限らず日本国内の大手ビールメーカーが使用する原料のほとんどは北米やヨーロッパからの輸入に依存しています。国内でも大麦やホップの栽培は行われているものの、残念ながら消費量をまかなうほどの生産量には至っていません。そのため発売は期間限定、数量限定、ほんのわずかな期間だけ国産ホップで製造したビールが発売されています。
そして、その期間がちょうど今なのです!
キリンビールは、長らく岩手県遠野市にても地元の農家の皆さんと協力して、ホップの生産に取り組んできました。今年も、遠野で生産されたホップを使用したビールが市場に登場しています。それが、「一番搾りとれたてホップ」、キリン一番搾り生ビールの季節限定銘柄です。
かっぱ伝説などの妖怪がでてくる民話の里として知られる「遠野」。
ビール好きの間では、ホップの里として有名です。遠野でキリンビール向けのホップ契約栽培がスタートしたのは1963年のこと。生産されているホップはほぼ全量をキリンビールが買い取っており、遠野とキリンの関係は、消費地の私たちが思う以上に深いものがあります。現在生産されているホップ「IBUKI」もキリンビールが開発しました。
毎年、夏になると背丈の倍以上あるツルが遠野のいたるところでみられます。まさに、グリーンカーテン。これがホップです。高所作業車をつかって刈り取り、球花だけを切り出し、それをビール工場へ出荷します。
一般的にホップは乾燥後ペレット状に圧縮・加工して輸送することが多いのですが、遠野では昔から摘みたてをそのまま袋詰し、冷蔵トラックで輸送しています。
日本で唯一、街をあげた一大ホップ収穫祭。JRは臨時列車も!
遠野のホップは春先から育ちはじめて、8月の終わりに収穫します。これをビール工場へ送り、麦汁とあわせて仕込み、貯酒、パッケージ後、流通と続き、11月に私たちの手元にやってきます。瓶ビールもありますから、居酒屋にも並びます。
今回は、そんなホップ収穫時期に開催された、全国でも珍しいホップのお祭り「遠野ホップ収穫祭」の様子をご紹介します。コロナ禍で中断していたイベントですが、2023年に再開しました。実に4年ぶりのことです。
日本全国からビール好きが集まるイベントということで、なんと盛岡・遠野・北上・一ノ関を結ぶ臨時列車も運行されます。初日となる2023年8月19日(土)、遠野へ向けて走る遠野ホップ収穫祭号は、乗車率100%を越える大勢のお客さんを乗せて発車しました。
遠野へは、東北本線と接続する花巻駅からJR釜石線で約1時間。人口2万6千人の遠野市の中心駅である遠野駅は釜石線沿線では利用者が多い有人駅ですが、イベント当日はさらに賑わいます。お酒を飲むイベントと公共交通は好相性ですね!
遠野駅から会場までは5分ほど。会場は高揚感でいっぱいです。
一画には、地元の高校生が手積みしてきた新物のホップが置かれていました。とれたてのホップは、こんなに鮮やかなのです。
会場となる巨大テントは超満員。東北の山中とはいえ猛暑ということもあり、気温も参加者のテンションも高め!サンプラザ中野くん&パッパラー河合スペシャルライブでは、熱気も最高潮に達しました。
テントの外にも溢れんばかりのお客さん。遠野をはじめとした近隣の飲食店がブースを構え、ビールに合うおつまみの販売が行われました。遠野産ホップを使用したスペシャルな料理も多数。
キリンビールからは、冷蔵トラックそのものがビールサーバーとなっている非常に珍しい「ドラフトカー」が駆けつけ、次々入るビールの注文に応えていました。
地元のブルワリーも参加しています。こちらは、クラフトビール好きの間ではおなじみ、遠野麦酒 ZUMONA。
遠野醸造からは遠野山椒を使ったベルジャンホワイトなど意欲的な銘柄が販売されるなど、多種多様なタイプのビールが揃いました。「ホップの里からビールの里へ」という意気込みが感じられるイベントなんです!
一番搾りとれたてホップは、遠野のホップ畑に直結するビール
大手メーカーが全国に向けて発売するビールはあまり地域色を強く出さない印象がありますが、『一番搾り とれたてホップ生ビール』は違います。
メインステージで乾杯の挨拶をされたのは、キリンビール東北支社長 阪下達哉さん。
「レッツ!ホッピング!」カンパーイ
こちらはキリンビール仙台工場 工場長の末武 将信さん。『一番搾り とれたてホップ生ビール2023』を製造する工場は、遠野から最も近いキリンビール仙台工場です。
横浜うまれのキリンビールですが、実は東北進出は早く、1923年に仙台市小田原にて初代仙台工場を操業させています。今年で遠野ホップは60周年、キリンビール仙台工場は100周年になるメモリアルイヤー、無事開催できて本当に良かったですね!
遠野ホップ農業協同組合 組合長の安部純平さんから、末武工場長へ摘みたての新ホップが手渡されました。これこそ「とれたてホップ」です。
今年のホップは例年以上に香りが良いそうです。「毎年変わる味を楽しんでください」と安倍さん。
ステージにはドイツ民謡楽団「ALPINIA」の皆さんや、多田市長や収穫祭実行委員長の田村さん、JR盛岡支社の方などがあがり、皆さんで4年ぶりの開催を祝いました。
産地に行くことで感じられる価値がある
イベントは大盛況。急な天候の変化もありましたが、笑顔であふれるイベントになりました。来場者数は約9,000人とのこと。
お酒は嗜好品、どんな環境で、どんな方が育てた原料でつくっているかを知るともっと美味しくなります。来年も開催されると思いますので、ビール好きの方は東北旅行とセットで訪ねてみてはいかがでしょう。
ホップづくり、ビールづくり、ビール流通に携わる卸や酒販店、提供する飲食店の皆さん、みんなの想いがこもった『一番搾り とれたてホップ生ビール2023』、今年も最高に美味しいです!
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/キリンビール株式会社)