創業60余年になる巣鴨の「千成本店」は、老舗酒場好きならば一度は訪ねてみてほしい激渋の一軒。渋いといっても硬派なお店ではなく、老若男女、一日に背負ったマイナス成分を長年洗い流してきたようなお店です。
看板料理は豚モツのやきとりと牛モツの煮込み。品川にある東京都中央卸売市場食肉市場(芝浦と場)から直送の朝〆モツとのこと。また、もつ焼きだけでなく釣り好きの大将の影響もあって鮮魚も豊富で、本日のおすすめメニューはちょっとした大衆割烹のよう。何を食べようか決める前に、巣鴨駅前に居たらまずは千成に吸い込まれてみるのもよいものです。
夕方4時からあける大箱の店へ、気を張らずに訪ねてみましょう。(2020年2月以前に取材しました)
シニアの皆さんが集まるとげぬき地蔵尊こと「高岩寺」が有名な巣鴨。そんな町の玄関もすっかり近代的になりました。駅ビルにはおしゃれなショップが多くキラキラしていますが、目指す飲み屋街、駅前広場の向こう側は変わらない町並みが残っています。
老舗食堂や立ち飲み店など梯子酒も楽しいこのエリア。その中でもひときわ渋い店構えなのが「千成」です。店先で勢いよく焼き続けているやきとりの匂いに誘われて、ひとり、またひとりの暖簾をくぐっていきます。
店は奥に広く、厨房に向いたカウンター席が続いています。テーブル席もあり、会社員やカップルがちょい飲み中。まだ17時前だというのに、相変わらずの賑わいです。
一杯目はビールから。ここの生は、昔ながらの大きい中ジョッキについでくれます。ぐっと喉を刺激する樽生スーパードライをもらって乾杯!
生ビールはアサヒスーパードライ(中630円・以下税込)。ビンは大ビン630円でアサヒスーパードライに加え、サッポロ黒ラベルも選べます。日本酒は定番酒には珍しい長野のお酒「美寿々錦(美鈴々錦)」を置いています。サワー類は400円から。
さてさて、気になる今日のおすすめ。平目かんぱち盛り(930円)から始まり、カワハギにしめ鯖、あじ、サンマにすみいか、タコと焼鳥メインのお店とは思えないほど刺身が充実しています。ふぐにカキ、ホタテバターなどもあって、あれもこれも食べたくなります。
一番人気はやっぱりモツ類。串は豚モツですが煮込みは牛と使い分けている千成。煮込みはモツとすじのふたつから選べ、常連さんにそれぞれファンがいらっしゃると聞きます。串は120円から。
定番メニューにある隠れた人気料理、ウニスパゲティ(1,380円~)。ほかにも金目鯛煮付(850円)などよく見渡さないとあとで「あ、こんなのあったの!?」と後悔してしまいそう。
お通しはたいてい煮込みで、この日はきんぴらごぼう。もちろん店のてづくりです。簡単な小鉢のお通しが美味しいと、このあともいろいろ頼みたくなるというもの。煮込みもお通しとほぼ同時に出てくる超スピードメニュー。ふんわり漂う牛モツの濃い風味は、それだけでビールを進ませます。
ぷりっとした肉厚の牛シロ(マルチョウ)。脂の残り具合が絶妙で、クサミやケモノ感はほとんどなく、その代わり猛烈な旨味・コクがつまっています。生姜が効いていることもあって、余韻も心地よく、つまりは絶品。家族経営で60年、煮込みで商売してきたお店はやっぱり強いです。
飲み物のオススメは抹茶ハイ(400円)。人気の飲み物で緑色のジョッキがあちこちの常連さんの前に置かれています。昨今のお茶ハイブーム以前からある濁り系の美味しい一杯。抹茶濃いめで甲類も濃い目。
カシラやレバーなどの部位はボリュームもあってよいのですが、千成ならではの串もお試しあれ。なんこつの中でも希少部位の輪(左)、ちょうちょ(中央)。このふたつは売り切れていることも多く、早いものがち。コリコリとした食感と滲み出る肉の旨味は、なんこつ好きをとりこにするおいしさ。
もうひとつ、右にあるのは豚棒(とんぼ)。こちらもなんこつ串のひとつで、豚ひき肉になんこつ混ぜたコリコリ食感の豚つくね。普通のつくねもありまして、食べ比べるのも楽しいです。
個人経営で親子家族で店にたち、程よい距離感で接してくれる千成の皆さん。通えば通うほど、また行きたくなる不思議な吸引力があります。
地下の炉端焼きひろちゃんと経営は同じ。両方の食べ物が楽しめるからこその豊富な品ぞろえです。魚も肉もつまみたいときにぜひ。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材時期/2020年2月以前)
煮込 千成 本店
03-3918-9479
東京都豊島区巣鴨2-3-8 第2ゆたかビル
16:00~23:30(日定休)
予算2,500円