ウルトラな街、祖師ヶ谷大蔵。駅構内には特撮プロダクションのポスターが所狭しと貼られ、駅前広場には3分間だけ戦えることでおなじみの巨大ヒーローが仁王立ち。商店街の幟には大怪獣が描かれています。駅前商店街の名前はずばり「ウルトラマン商店街」。
特撮ヒーロー発祥の地にも、素敵な居酒屋があります。南口に構えて36年、手頃な値段で美味しい魚料理でもてなしてくれると地元の飲兵衛さんに評判の店、味処「たちばな」をご紹介します。
祖師ヶ谷大蔵は新宿から小田急線で20分ほど。地下鉄千代田線からの直通列車も多く、都心からのアクセスが良好です。
昔ながらの私鉄駅前らしい、コンパクトにまとまった広場や商店街がおもちゃ箱のような駅周辺。今日の目的地は砧公園でもそしがや温泉でもなくて、目指すはもちろん商店街の居酒屋です。
丁寧な接客のご夫婦、息子さんで切り盛りする家族経営の「たちばな」。
居酒屋をはじめたころ、商店街の道幅が今よりも狭かったそう。「拡幅を前提に引っ込んだ場所に店を建てたものだから、地元の人から入りづらい雰囲気と言われてしまって」と、ご主人。他のチェーン店と違い、いまも落ち着いたムードではありますが、むしろこの佇まいのほうが、読者の皆さんは「入りたい」と思うのでは。
厨房に向いたカウンター席と、いくつかのテーブル席。地階にも35席程度の客室が用意されています。常連さんのお気に入りはもちろんカウンター。ベテランの方が午後4時30分の口開けから続々とやってきます。
看板料理はお刺身。鮮度や質のバランス、そして2点盛り600円という手頃な価格設定もこだわり。ご主人が丁寧に包丁をいれて用意します。
今日の刺身(480円~)はかんぱち、しめ鯖、たこ、生だこ、いか、真だいにしまあじ。
「いらっしゃい」、「ひとりです」、「ここどうぞ」、「お飲み物は?」、「瓶ビールをお願いします」この掛け合いをぽんぽんと進めて、ささっと登場、サッポロラガー(大びん680円)。それでは乾杯!
生ビールは昨今の値上げに伴い、休止中。丁寧なお詫びの文章がありました。瓶で赤星大瓶に加え、黒ラベルとヱビス プレミアム ブラックの2種類が用意されています。
酎ハイ(400円~)、焼酎(350円~)、定番が一通り。アルコール類のメインは、冷蔵庫に並ぶ豊富な地酒で、のちほどお刺身に合わせていただきましょう。
お通しはひと手間加えた小鉢。ハーブソーセージ入りの洋風おでんだったり、煮付け、酢の物などが日替わりででてきます。
続いて料理メニュー。自家製ポテトサラダ(480円)や辛いモツ煮込みなどが気になるところ。〆のさば寿司(800円・半分サイズもオーダー可能。)も東京では珍しいですね。
ここからがすごい。黒板メニューが充実していて、2日続けて訪ねてみても飽きることのない内容です。
こちらがおまかせ5点盛り(中とろ入り1,030円)。盛り付けが美しく、かわしもにされた鯛など、それぞれに仕事が施されています。板前一筋というご主人の腕のよさを求めて通う常連さんも多く、刺身の話題でお隣の方と盛り上がりました。
日本酒は単語帳のような一回り小さなめくりメニューになっていて、その日入っているたくさんの地酒が紹介されています。眺めているだけでも楽しい品書き。サービス品は一杯限定、480円のお酒。何が出るかはおたのしみ。
この日の「本日の日本酒」は北海道ニセコのお酒。サービス品とはいえ、お店が集めたこだわりの地酒の中から選ばれているものですから、珍しいものがやってきます。
北海道産酒造好適米「きたしずく」を使った特別純米きもと造り。しかも熟成をした珍しいもの。
深みのある味とまろやかな口当たりがあとをひく日本酒です。和らぎ水がセットで用意されます。
寒い季節のおでんは格別です。たちばなのおでんは、軽くピリっとした特製味噌を添えているのが特長。東北地方のおでんにみるスタイルです。それぞれに一工夫しているのが素敵で、こういうのが通いたく感じさせます。
人気料理、焼きトマトチーズ鉄板焼(450円)。ピザのピザ生地抜きのような料理。見た目から伝わる内容ずばりのシンプルな料理ですが、これがなかなかどうして、次回も食べたくなってしまうのです。
「日本酒に洋食をあわせたっていいじゃない、だって居酒屋だもん。」と、そんな雰囲気でざっくばらんに飲める居酒屋が大好きです。
刺身につかえる鯵を三枚にしてフライにした、肉厚のアジフライ。開いた小さなアジフライはソースをかけますが、こういうタイプはあえて醤油を選ぶのもいいですよね。中に火がはいりきる直前で上げているようで、衣はサクサクできれいなきつね色、身は予熱でほくほく、とってもジューシーです。
カキフライも揚げ具合が絶妙でサク、トロっ。ウスターソースを気持ち多めにかけていただきます。
日本酒のあとは、酎ハイでのんびりと。焼酎甲類はナカ200円で追加できますので、炭酸1本を2回に分ければ濃い目の酎ハイが楽しめます。
17時過ぎにはカウンターは半分席がうまるような人気店。みなさん地元の方で、ここでいつもの方と簡単に話したり、ご主人と世間話をされるのがお好きなよう。もちろん、初めてきた人にも皆さん親切ですから、ぜひ勇気を持って暖簾の向こう側へ。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
たちばな
03-3415-0611
東京都世田谷区砧8-8-26
16:30~23:30(第二月定休)
予算2,500円