北海道南東部の釧路と根室の間。湿原に囲まれた人口約9千人の町「厚岸」。全国的に牡蠣の産地と知られる漁師町で、年間通じて良質な牡蠣が養殖・出荷されています。
大自然に囲まれ栄養豊富な厚岸湾・厚岸湖の存在は、牡蠣だけでなく魚種が豊かな天然の養殖場とも言えます。サケ、マス、チカ、カレイ、アサリ、ツブにホタテにホッキ貝。挙げればきりがありません。
そんな厚岸の魚介類を肴にきっゅと一献傾ける、駅から徒歩7分ほどの真栄にある「桜亭」をご紹介します。
厚岸へは、アジアで最も東を走る鉄道、JR根室本線(花咲線)で、釧路から1時間ほどで着けます。生牡蠣をその場で食べられる道の駅が有名ですが、お酒と合わせるならばやはり鉄道がちょうどいいです。
JR根室本線の釧路・根室間(両駅を除く)で唯一駅員さんがいる駅で、まるで北海道を舞台にした映画のワンシーンのような光景が残っています。
駅周辺は昔からの商店街があり、人通りはまばらながらも、遅くまでやっている蕎麦屋や商店が何軒かあり困ることはありません。
桜亭もそんな駅前から続く商店街にある一軒。地元ではおなじみの和食全般からお寿司まで揃える割烹です。冠婚葬祭の宴会や漁港や役場の人の昼食場所として、日常的に地元の人が利用されています。
ご主人が立つ板場に面したカウンター席や、宴会ができる広間を配したつくり。一人、二人ならば、人柄が素敵なご主人の前になるカウンター席がおすすめです。
緯度が高いとはいえ、日中の日差しはビールを誘います。北海道・恵庭でつくられた樽生黒ラベル(600円)をもらって、まずは乾杯!昔ながらのたっぷり入るジョッキです。
瓶ビール(中瓶・500円)、釧路・根室の日本酒(350円~)、酎ハイにウイスキー(厚岸蒸留所のものではありません)など。
宴会利用が多いお店で、定番メニューは”おきまり”になっていますが、相談しつつ食べたいものをいくつか見繕ってもらうことも可能です。牡蠣をたっぷり載せたえもん丼や、生牡蠣、カキフライなどを含む牡蠣づくし(1,785円)、海鮮丼に握り寿司など。
単品では、焼き牡蠣が210円などリーズナブル。ただ、ここは牡蠣もよいですが、せっかくですからいろんな魚を摘んでみませんか。
そうして、地元・厚岸漁港で揚がった魚介類だけを盛り付けてもらったお刺身がこちら。ツブ、エビ、ホタテ、ニシン刺し。なかなか立派です。ぷりぷりで鮮度は抜群。なんたって、漁船が集まる漁港まで数百メートルですから。
ニシン刺しはまれにみかける珍味。細かく包丁を入れています。想像以上に”ブリブリ”とした食感で、噛むほどに脂が滲んできます。
ぷりぷりのホタテも、濃厚な甘さで、あとからじんわり磯の風味が響いてきます。
自家製、厚岸のイカでつくった塩辛や数の子、白子煮などの酒の肴を盛り合わせで出していただいて…
そうして合わせるお酒は、根室の地酒・北の勝。スルスルと飲めるバランスがよい味で、地物をつまみながらのんびり飲むのにぴったりです。
握り寿司の修行をされたご主人がいろいろ料理を用意してくれますので、やっぱり最後は簡単に握ってもらいたいもの。いくらとウニ、食べたいものだけをちょこちょこと。
遠方から何度も訪れる方がいらっしゃるそうで、そんなファンの皆さんの気持ちがよくわかる心地よい時間です。なんたって、食材がいい、そしてご主人の人柄が素敵ですから。
家族経営で営む老舗の大衆割烹。お昼から夜まで通しで営業していますので、釧路・根室を旅する間に厚岸で途中下車、桜亭で飲んでいくなんていうこともできまます。
牡蠣だけじゃない厚岸の魅力を知れるお店です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
桜亭
0153-52-3702
北海道厚岸郡厚岸町真栄2-149
11:00~21:00(不定休)
予算3,000円