八代「小麦」 創業63年、老舗酒場で土地の味。品書きなくてもご安心を。

八代「小麦」 創業63年、老舗酒場で土地の味。品書きなくてもご安心を。

不知火海に注ぐ球磨川に抱かれた街、八代市。約12万人が暮らし、昔から畳に使うい草の生産が盛んな地域です。江戸時代に干拓によって誕生した八代平野を使った農産に加え、メルシャンなどの近代工業の進出、八代海や球磨川での漁業によって繁栄した八代。中心市街の本町は県南最大の繁華街と言われていました。(参考:八代市ホームページ)

近年では九州新幹線の開通によって、博多駅、そして鹿児島中央駅からおよそ50分でアクセスが可能となりました。

現在の八代には往時ほどの賑わいはありませんが、それでも、歴史ある繁華街にはいい店が残っているもので、地元の常連さんたちが集う老舗を巡ることができます。

今回は、そんな八代・本町で長年親しまれてきた「小麦」をご紹介します。創業から63年になるお店です。

 

ふぐ汁、豚汁、だご汁と、汁物を看板料理にしたお店。汁を看板料理にした珍しい飲み屋です。昼定食の文字もありますが、営業は19時頃から。夜、それも深夜がメインとなるお店です。

 

店先に暖簾はなく、なにより店内に品書きもありません。それでもご安心を。素朴であったかい雰囲気の店内で、女将さんが静かに迎えてくれます。

 

昔ながらのすのこを敷いた厨房で、女将さんを中心にして切り盛りされています。カウンターに置かれた冷蔵ショーケースが品書き代わりで、そこに並ぶ、八代名物のこのしろ、キビナゴ、イイダコ、つぶ貝、シャク(蝦蛄)を選んで、刺身や炊きものにしてもらいます。

もちろん、ふぐを豪快に姿のまま入れた味噌味のふぐ汁やだご汁(団子入り味噌汁)も用意があって、地元の人は〆の一杯を目指して小麦を訪ねてきます。味噌は、九州らしく「麦味噌」を使用しています。

 

八代はキリンビールをよく見かけます。連続蒸留器を置くメルシャン八代工場がこの地にありますが、同社はキリングループです。老舗のカウンターに、キリンラガーがよく似合います。トトトと注いで、では乾杯!

 

まずは、おでんから。お隣の鹿児島県だけじゃない、複雑に海が入り組む熊本も練り物の名産地。熊本では「てんぷら」と呼ばれていて、こちらでもそう。

 

出汁が効いていて塩味控えめ。染み込んだ旨味がビールを誘う、ずっしりとした大根も抜群に美味しいです。

 

ケースで山盛りになっていた輝く目をしたヒイカ(ジンドウイカ)を炊いてもらいました。一皿500円くらいでしょうか。刺身で食べても美味しいよ、とのこと。地元の甘醤油と酒で10分ほど煮て完成です。

 

焼酎のお湯割りを誘う濃厚な味がたまりません。白岳のお湯割りをお願いしましょうか。

 

時間が経過し、常連さんもひとり、またひとりとやってきて、店はだんだん賑やかになってきました。家族経営の牧歌的な雰囲気の中、旅先の肴に舌鼓を打つこのひととき。最初は緊張していても、30分もいれば昔から知っている場所のような安心感がうまれる不思議なお店です。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

小麦
0965-33-3092
熊本県八代市本町1丁目3-26
予算2,200円