冬の日本海側は”魚喰い”には魅惑のエリアです。ズワイガニに代表される海産物は、東京の高級店で食べる以上に鮮度がよいものがあり、そしてなにより値段も安い。普通の酒場価格で感激の魚料理が食べられます。今回は富山湾の幸を求めて高岡へ。
新幹線の開通で格段にアクセスがよくなった富山県第二の都市・高岡。加賀藩の台所と呼ばれ栄えた高岡は、同県の富山市と対象的にしっぽりとした雰囲気があり、ノンベエにはこちらの姿も心地よいもの。天然の養殖場と呼ばれる富山湾に面した新湊や氷見も近く、魚で飲むならば間違いなく高岡です。
この冬も豪雪で飲み屋街も雪で埋もれましたが、細い小路に雪を照らす提灯や行灯は色っぽく見えます。
魚を食べにやってきたお店はその名も「魚人」(ぎょじん)。地元の人達が普段から利用する街の居酒屋です。
ピカピカの厨房機器が並ぶ台所にむいたカウンター。等間隔で配された醤油など、ぴしっとしている様子がお分かりいただけるでしょうか。
数人で飲むならば対面の小上がり。こちらも手入れが行き届いていて、食べる前から「いいお店に入った」という安心があります。
店先に新湊直送の活イカと茹蟹の立て看板。さらに日替わの品書きには富山湾の幸が所狭しと並んでいます。活ヤリイカが1,600円~というのは東京の相場の半額程度。
派手なものばかりではなく、地元の人がひとりでふらりとやってきてカウンターで自分の時間を楽しむような”ちょっとした肴”もあり、しっかりと大衆酒場の基本は揃っています。
ビールは生(中550円)も瓶(大びん650円)もサッポロ黒ラベル。昔からの赤い星マークのジョッキが現役で長い付き合いが読み取れます。日本酒は土地の酒「立山」で本醸造が2合750円と安心して飲めそうです。若鶴酒造の苗加屋の特別純米がボトルであり。
半月盆がセットされ、ビールをトトトと注いで、さぁ楽しい時間の始まりです。では乾杯!
北陸の味覚、バイ貝をつかった先付。出汁をきかせ醤油やみりんは控えめ。関西風の味付け。
家族経営の温和な雰囲気に迎えられ、会話の中で料理を選んでいきましょう。新湊で水揚げされたばかりのガスエビを見せてもらえば、頼まずにいられません。
手の熱が伝わらないように手際よく殻をむいてもらい、ちゃちゃっと登場。
どうですか。透き通るほどの鮮度の良さ。甲の味噌までくさみは皆無。甘く磯の美味しいところを凝縮した味わいで、余韻も爽やか。もうこれだけで高岡に来た甲斐があったというもの。
店の片隅には生け簀があり、ゆうゆうとヤリイカが泳いでいます。色々食べるなかで一匹食べられるか不安でしたが、サイズがまちまちなので小柄なものならばいけますよ、とのこと。
大将の熟練の包丁さばきであっという間にお刺身へ姿を変え、目の前に。下足まで透けています。
お燗酒の立山を注いだお猪口をきゅっと口へ運んだら、いざ勝負!
コリコリとした食感。鮮度のよいイカのクセの無さは素晴らしく、桜のような爽やかな香りがします。軽く生姜醤油につけて食べれば、それはもうほっぺが落ちそうに。すかさずお燗酒をきゅっと。
今日は富山湾の美味しいもの揃い踏み。このままズワイガニへといきましょうか。新湊の「ほっかほっかのカニ」。
大皿からはみ出すほどの大きさ。味はまれにみるほど濃くて旨味が強い。一口食べるごとにお酒がお猪口一杯乾かしてしまいそうなほどしっかりとした余韻があります。
美味しい、美味しいと会話もそこそこに頬張ってたっぷりお酒を飲んだところで放心状態。時間はまだ7時前なのに、完全にできあがってしまいました。富山湾のちから、恐るべし。
二人で飲んで食べてしても一人5,000円程度。やっぱり旅先の酒場は素晴らしい。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
魚人
0766-22-8771
富山県高岡市末広町8-32
17:00~22:30(日定休)
予算4,800円