水戸の中心街と比べ、JR水戸駅は一段低い場所にあります。これは偕楽園や千波湖から那珂川を結ぶ桜川の川沿いに駅が作られたからで、メインの繁華街までは結構な坂を登らなくてはいけません。
ただ、この坂沿いが素晴らしい。昭和のまま時が止まったような飲み屋街や商店街が続き、人通りは少ないのに暖簾の向こう側は笑い声で溢れています。坂の途中には徳川家康を主祭神として祀る水戸東照宮があり、その参道も兼ねています。
奥に水戸東照宮の鳥居を眺める飲み屋街。味のある店ばかりで梯子酒は止まりません。
こちらはバス通りの銀杏坂。ノンベエはキレイなこちら側よりもやはり裏側から登りたい。
登った先、古い飲み屋街に佇む一軒「長兵衛」をご紹介します。水戸の飲み屋も何軒も巡っていますが、長兵衛の活気は中と外の差が大きく、まさに地方都市の色街脇のいい酒場です。
静かな飲み屋街のなかを軽い緊張感の中やってきた先、暖簾をくぐったら突然目の前に広がる酒飲み天国。みんな笑顔で飲んでいる、たまりません。
カウンターとテーブル数卓の細長いお店。老若男女お客さんの層は幅広く、若いカップルも楽しそうに大瓶を飲み交わしています。
ビールは生がキリン一番搾りとアサヒスーパードライ、瓶ビールではキリンラガーほか、アサヒスーパードライ、サッポロ黒ラベルと老舗3社が並びます。
酎ハイは450円、ハイボールはありません。ホッピーはソトだけなのでお気をつけください。飲みの流れはビールからの茨城県常陸太田市の銘酒「剛烈」(300円)が基本でしょうか。
どっしりサイズの生大を夏頃飲んだときは最高でしたが、今日は寒いのでちびりと飲める瓶ビールで。キリンラガーをもらって、トトトと注いで乾杯!
「あら、久しぶり。」と女将さん。ちゃきちゃき接客で店を仕切る女将さんはとっても優しい方です。気持ちも緩んでいい気分。
もつ焼きは1本80円と今時めずらしい安さ。30年以上継ぎ足しているタレを使用しコクのある味があとをひきます。煮込み(400円)も看板料理でグツグツの状態でやってきます。めひかりの天ぷらやいかわた煮など海鮮に個性があるのも楽しい。港町大洗まで7キロ、水戸は海の幸も充実しています。
酒びたし鯖塩焼き(700円)、茨城でときどき見かける干物です。
1本80円なのに一般的なそれよりも一回り大きなもつ焼きのタン。潰したてで鮮度抜群とのことですが、たしかにぷりっぷりでジューシー。ここの豚もつ焼き、タン、シロ、レバ、ハツの4種類でカシラはありません。
そして、実は長兵衛にきた目的はこれ。常連さんに人気のしじみ炒め(600円)。
汽水域に囲まれた水戸周辺は昔からしじみが食卓の定番。しじみ三大産地の涸沼でとれる大和しじみは旨味がぎゅっとつまっていてお酒との相性が抜群。これに酒とたっぷりのにんにくで炒めたもの。スープのようにスプーンで汁を飲めば、お酒がますます進みます。
手でつかんで口に運ぶ。はしたなくたっていいさ、みんなそうして食べている、ここは酒場ですから。
日本酒のチェイサーに酎ハイをもらって、しじみをおつまみにお客さんとの一期一会の会話を楽しむ。
東京下町の酒場のような雰囲気もありますが、地方都市ならではの暖かさがあります。昭和51年創業、水戸の名酒場の暖簾をくぐってみませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
もつ焼 長兵衛
029-226-8877
茨城県水戸市宮町3-2-21
17:00~22:00(日祝定休)
予算2,000円