西武新宿線の駅は近代的なロータリーがあまり整備されていことが多いです。私鉄らしい小さな改札をでたらいきなり広がる商店街。大規模なスーパーなどの商業施設も少なく、街は昔ながらの雰囲気で元気があります。そして、商店に混ざって大衆食堂と飲み屋の名物店が必ずと言っていいほどあり、日中から夜遅くまで賑やかです。
上石神井もまさしくそんな西武線らしい街。踏切と交番と、商店の軒先ぎりぎりを走る路線バス。昔から何も変わりません。
ここに2009年、名古屋出身のお姉さんが味噌カツを看板料理にした立ち飲み屋をオープン。最初は味噌カツ・どて煮が浸透せずに苦戦もあったそうですが、いまでは地元に深く根付き、深夜まで多くの常連さんたちで賑わっています。
東京に行きたいという夢を持つ店主のお姉さんは、身一つで名古屋の家を飛びたし、東京は憧れの地・吉祥寺にやってきたのだそう。住居も用意せず、ホテル暮らしでだんだんと貯金が尽きてゆき、悪戦苦闘の末、不動産屋から「吉祥寺は高いし、競争が厳しいから」と、上石神井の物件を紹介され、そうしてここに辿りついたと話します。
憧れの吉祥寺から、東京の地名をほとんど知らず、上石神井という名前や急行停車駅という条件も知らないまま、ここに店を出して、結果的にはよかったと笑いながら話すお姉さんは最高にロックです。”人間やってみればなんとかなる”というのを地で行く人。
いまではすっかり店も軌道に乗って、名古屋からお母さんを呼んで母娘で切り盛りされています。
駅と家の間の通り道でちょいと帰宅前のサードプレイスとして利用する地元の人がお客さん。バッグパッカーの外国人、アパートで一人暮らしの人、上石神井に詰所がある鉄道マン、ビール系会社の寮に住む人など、様々なお客さんが集まってくるそうです。
ほどよく開放感のある小奇麗な雰囲気はさすが女性オーナーの店。L字カウンターとドラム缶をテーブルにした円卓が並びます。小さい椅子が用意されていて、立ち飲みに疲れたら自由に座ることも可能。
ビールは、生がアサヒスーパードライ、瓶ではキリンラガー(中びん450円)とハートランドが入っています。冷蔵庫でよく冷えたキリンラガーに枝豆。蝉の鳴き声をききながら、日本の夏を肴に乾杯です。
軽く一品は150円、名物のひとつ「牛すじ煮込み」は京なのであえてこう書いているそうで、味付けは名古屋のどて煮に近い。
串揚げは1本90円。看板料理のみそ串かつがおすすめですが、ソースで食べる一般的な顔ぶれも並びます。おでんは年中商品、白だしですが追加で甘味噌を載せて食べる名駅2丁目的な味。
東京向けにややアレンジが加われど、本場の名古屋の立ち飲み屋にも負けず劣らず美味しいどて煮風牛すじ。しっかり味の煮込みには爽やかな苦味のラガーが合います。
味噌串かつは、見た目も味も間違いなく名古屋とおなじ。甘くコクのある味噌味を衣がほどよく吸い込み、サクっとしていながら味噌の絡みもしっかりと感じられます。
350円と大変良心的な値段で提供される生ヒールはセルフで注ぐこともできます。業務用機を使わせてくれるお店って少ないのでテンションが上がりませんか。最初に斜めにして注ぎ、最後に泡を載せるのが基本動作。
※碑文谷の業務用冷蔵庫メーカー・ボクソン工業のVT300だ!
泡少なめ液多めにするもよし、気分はビアホールのカウンターマン!?
おしゃべり上手で楽しく盛り上げてくれるお姉さんと、明るい雰囲気のお客さん。美味しい名古屋のみそ串かつを肴に、ベッドタウンの穏やかな立ち飲みを満喫してみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
たち飲み 蔵屋
03-5903-8077
東京都練馬区上石神井2-23-16
16:00~25:00(月定休)
予算1,800円