むかしは今以上にお酒屋さんは身近な存在でした。私も幼い頃から買い物の付き添いや、ジュースを買いに今のコンビニのような感覚で通ったものです。
そして、どこの街のお酒屋さんでも何軒かは当たり前にやっていた、店の片隅でグラスの一杯売り、いわゆる「角打ち」。ベテランの先輩方が、ビヤタンになみなみ注がれた日本酒をきゅっと飲む姿は、いまや貴重な昭和のワンシーン。そんな昔ながらの角打ちが僅かに残る一方、新しいスタイルのお酒屋さんを模索するお店も増えています。
東京はいま、角打ちブームまっさかり。これまで角打ち営業をしていなかった街の銘酒販店が続々を現代風角打ちをはじめています。女性が入りやすい、お酒に詳しい、オシャレ、サブカルとの融合…。ネオ角打ちの答えはひとつではありませんが、街に頼られる老舗にデザインを融合する「シック&モダン」という方向性として「相模屋本店」が非常に魅力的です。
雷門通りに面する130年の歴史を持つ酒販店で、近隣の老舗から新進気鋭まで幅広い料飲店さんに頼られる存在。店の奥にはタイル張りで分厚い木製扉で仕切られた酒類冷蔵室を持ちます。下り酒で重宝された灘の銘酒・金盃の扁額も店の歴史を物語ります。
現在暖簾を守る4代目・恩田健氏は、店をリニューアルするにあたって角打ちを開きたいという夢があったそう。
長年温めていた角打ち計画が花開き今年の3月にオープン。自社輸入のワインや地元の名物・電気ブランや缶ビールなどの小売を残しつつ、新たに誕生したL字カウンターと丸テーブル。広すぎず、狭すぎず。明るすぎなく、暗くない。シックとモダンの融合が実にきまっているのです。
それもそう、実は東京を中心に次々と人気店をプロデュースしている岩倉久恵さんが企画に携わっているのです。恩田さんとは10年来の料飲業界の付き合いだそうで、街の老舗酒屋の部分と今風の心地よさを生み出すプロの融合に違和感が全くありません。
いい意味で「こなれている」感があり、こっちが身構えて「楽しみ方を探すぞ」としなくても、空間・料理そして何よりお酒が心地よく包んでくれるような気分になるのです。店内にテレビが設置されているのも「お気軽にどうぞ」が感じれます。
15時のオープン、まだ早い時間ながら近所の常連さんや観光客が心地よさに惹かれて吸い込まれていきます。
飲み物は、お酒屋さんなので何でもあり。自家製のレモンサワーやジンジャーサワーに、今年話題のクラフトジン、店内で小売のボトルワインもプラス千円で店内で飲むことも可能。
ウィスキーから日本酒まで全方位カバー。早い時間の0軒目に軽く喉を潤すのにぴったりです。
一杯目はビールでしょう。キリンハートランドは今年31年目。東京・六本木生まれオシャレさんがネオ角打ちによく似合います。乾杯。
常時15種類以上を揃える自家製オツマミ。角打ちと侮るなかれの手の込んだ小鉢は、300円均一と、ちょっぴり贅沢なモッツァレラと生ハムが500円。ワインはもちろん、どんなお酒にも合わせられる顔ぶれです。
季節に合わせた日替わり・月替りメニューで構成されていて、らっきょうを使ったポテトサラダなど”こういうの食べたかった!”という気の利いたものばかり。
自家製のレモンサワー。ボタニカル的な風味がありつつ、あまみと酸味の絶妙なバランス。レシピをテイスティングで当ててみようということで「スピリッツベース?」と質問しましたら、キンミヤ焼酎との答えが。あれれ(苦笑)
飲み心地のとてもよいレモンサワーなので、お好きな方はぜひ試してみては。
日本酒は松江のお酒・豊の秋が定番酒。半合売りで1杯300円とお手頃価格です。お店の紋入のお猪口にその場で注いでもらって乾杯です。
上撰豊の秋以外は、個性的な銘柄揃いで、生酒や原酒など酒屋さんでちょいと飲むのに楽しい一杯です。お酒のことをより詳しく紹介してくれる酒販店の角打ちカウンターこそ、酒蔵の個性的な銘柄が活きるというもの。一杯400円均一。
浅草巡りの途中に、ふらりと寄れる素敵な空間。浅草は歴史と文明開化以降のハイカラが融合して賑わう街ですから、ネオ角打ち・相模屋本店のようなシック&モダンはこの街らしい角打ちと言えるでしょう。
街の酒屋さんが一周して新しい姿となって、また身近な存在になり始めているように思います。
さて、ほろ酔いになりましたし、これから一軒目と参りましょうか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/キリンビール株式会社)
相模屋本店 角打ち
03-3844-4196
東京都台東区浅草1-8-2
15:00〜22:00(月火水定休)
予算2,000円