渋谷はファッションを中心とした若者の街ですが、昭和に若者だった人が歳を重ねた今、同じくあの頃から年輪を増やしてきた昭和の飲み屋には、昔の若者が集います。
闇市の名残である横丁は渋谷にもいくつかありましたが、再開発につぐ再開発でその多くが跡形もありません。そんな消えていった横丁の中で、1955年(昭和30年)に一軒の台湾食堂「麗郷」が誕生しました。
恋文横丁という名の横丁は、この路地を舞台にした映画「恋文」からつけられたと言われています。現在のヤマダ電機LABI渋谷店の脇、文化通りに面したところから奥へと伸びていました。現在も「恋文横丁此処にありき」という碑がたっています。
昭和の渋谷を代表する中華
恋文横丁は1965年(昭和40年)には再開発で取り壊されてしまいましたが、当時の渋谷の若者に大人気だった台湾食堂「麗郷」は、道玄坂と文化通りを結ぶ道玄坂小路に移転し、レンガ調の独特なお城のような外観の店舗となり、現在に続きます。
ギラギラとしたネオンが光る路地は、慣れているからこそなんとも思いませんが、初めての人は実に入りにくい。そんな中で、麗郷にたどり着いたときの安堵感みたいなものは、幼いころの筆者の記憶にいまも残っています。
2階建てで個室含めて100席以上の大箱。一階はこれぞ中華といった感じの”廻る丸テーブル”がデンと並び、相席ごめんでみんなでテーブルを囲みます。
ビールは昔からサッポロ。麗郷のロゴ入りのジョッキで飲む生ビール(サッポロ黒ラベル)は、一杯550円。
料理は800円からと、いまのせんべろ酒場と比べれば割り高に感じると思いますが、昔はこれでも安く感じたものです。お通しなし、お腹いっぱい食べて飲んで3,000円くらい。渋谷のこの場所で、美味しく飲み食べしてこれならば良心的ではないでしょうか。
名物は、厨房側のカウンターにずらりと吊るされている腸詰めです。
サッポロの生ビールは、いまは「黒ラベル」と読んでいますが、麗郷ではあえて「サッポロ生ビール」と昔の呼び名を使いたい。鮮度抜群、状態良好のサッポロで乾杯。
昭和のこからの名物、腸詰めやビーフンのほかにも、麗郷の台湾料理は種類豊富で本格的。大根餅などの定番から酔蟹まで選べます。
ココに来たらまずは腸詰め
麗郷といえば腸詰め(840円)。腸詰めといえば麗郷。月に1度は食べたくなるこの味。独特な風味と濃厚な旨味、乾いているように見えて実はとてもジューシーです。
ピリ辛の特製タレをつけて食べます。中国人の店員さんが「これつけて」と、テーブル上の調味料を手際よく小皿の横に置いてくれることも。
おすすめは空芯菜炒め。
塩とにんにくを入れて強火で一気に炒めたもので、シャキシャキとした食感や甘さが残り、濃い目の味付けとあいまって最高の肴です。腸詰めと空芯菜を頼めば、もう一人前としてお腹も気持ちも十分過ぎるほど。
中華系のもつ料理も揃う。なかなかオシャレな中華料理店ではみかけないガツ炒めも、麗郷ならではの逸品。数人でこれをつつきながら、紹興酒やサッポロビールを飲めば相手も自分も大満足。
紹興酒は750円。
本格的でも味付けは日本人好みの大皿中華
古い本格中華によくある、細かい文字でびっしりとかかれた品書き。漢字四文字の料理名とちょっとした解説から、どんな料理か想像して頼むのが楽しい。「お、こうきたか」みたいな。
グループで飲むならばコースがお得感があり、あれこれたっぷり食べられるのでおすすめ。1人ならば、やっぱり腸詰めかビーフンでしょうか。
渋谷で学生時代を過ごした方には、大定番の中華。ここで大人に混じって背伸びしながら紹興酒を飲んだら、ちょっぴり大人になれた気がしたものです。
麗郷は料理が美味しく、昭和の渋谷を感じるにも最適なお店。お腹がすいた日の乾杯にいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)