鶯谷は大衆的な酒場が多く、立ち飲みから食堂飲み、そして東京を代表する老舗まで選択肢は様々です。個性豊かで魅力的なお店が輝いているので、どうしても路地裏のお店はあまり知られていない傾向があります。
でもですね、有名店はもちろんいいお店ばかりですが、裏がいいんですよ、裏が。例えば「一代」は、座って飲める老舗なのに、飲み食べしても一人2,000円を超えない程度で収まる庶民的な酒場です。
今回は「一代」の魅力をご紹介してまいります。
17時オープンで口開け時にはハッピーアワーでドリンクサービスをやっていまして、一杯目が酎ハイ200円、生ビールは300円になります。これを使えると更にお財布に優しい。とはいっても、値引きされた分以上におかわりして、結局とんとんとなるのがいつものことですが。
ビールは生樽も瓶もサッポロ黒ラベル。ビールは中びん450円なので、ハッピーアワーでなくともごくごく飲んでも安心です。古くともじっくりと底から冷やしていく冷蔵ケースで寝かされているので、まんべんなく冷えていて美味しい。
日替わりのオススメは要チェック。大衆的な酒場の定番が揃い、価格は400円前後が中心です。刺身が450円、季節ものですが焼きサンマは380円です。
定番メニューとドリンクをみてみましょう。酎ハイは東京においては安いと感じる300円から。ハッピーアワーを外しても実はまったく損した気分にならないもとからの安さです。
やきとりは90円、刺身も種類がいろいろあって楽しい。星マークのついている銀むつの西京焼はいつも食べようと思いながらも、他と比べると贅沢品なので躊躇してしまう。
まずは冷やしトマトと女将イチオシの「のりこねぎ」をつまみにもらって、生ビール黒ラベル(430円)で乾杯です。ビールジョッキは嬉しい昭和時代の中生サイズです。
のりこねぎは、ネギと海苔を大きめのお椀にたっぷりいれてピリ辛の醤油ベースのタレを絡ませたもの。90円とは思えない食べごたえと、お腹にたまらず飲めることが素敵。一番安いのをオススメしてくる女将については後ほど。
ネギたっぷりの煮込み(380円)は、あっさりとした味付けで、上野のガード下ででてくるようなもの。下ごしらえが丁寧なのか特有のクセはなく、豚の脂とネギの青さをあわせて、すかさずビールや酎ハイをあてていきたくなる酒場の味です。
サワー類には、レモンサワーやライムサワーと書かれていますが、ベースがキンミヤで炭酸をビルドして、なんとレモンそのものがトッピングされます。コンクで作る酎ハイが良い・悪いという話ではなく、300円でレモン1/8をいれてくれることが嬉しいのです。
大皿にどーんと盛られてくるニラ玉が、ここの酒場を愛用するサラリーマンチームの定番です。フライパンの径いっぱいにつくるので両端が扇の形になっています。特別とがったものではなく、うま味調味料も感じる昭和のそれなのですが、300円の酎ハイと380円のニラ玉を食べながら、古き時代に身をおくのも悪いことではないと思っています。
ライムサワーももちろん1/8ライム入り。すっきり爽やか、飲み心地のいい一杯です。
日本酒は定番が大関で、各地の地酒も500円程度で揃っています。最近のトレンドの”クラフト酒”的な銘柄ではなく、大手がどっしりとつくる地酒が中心なのは、店の雰囲気ともあっていていい。
昔からある雑然とした感じの大衆酒場ですが、ここは女将さんの接客がなによりの魅力です。一見さんにも常連さんにも変わらぬ愛想のいい笑顔で接客されていて、「初めての人ならこれとこれがおすすめ、楽しんでいってね!」と、入ってそわそわしている人に親しく話している姿が印象的です。
居酒屋は料理も空間も大事ですが、一番はお店の人の人柄だと改めて感じるお店です。一番安いおつまみをおすすめしてくるのも、「安く飲んでいってね!」という裏表のない気持ちが伝わってきます。好きな人にはたまらない、ディープな酒場に今夜はいかがでしょう。
店の隣がJRの線路で、お手洗いの窓からは東北の玄関・上野を発着する膨大な列車が大河のごとく流れています。そうか、ここは地方の人にとって東京のお母さんのお店なんだ。きっと。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
一代
03-3871-9901
東京都台東区根岸1-3-21 2階
予算1,800円
17:00~24:00(不定休)