大須観音に午後3時の開店と同時に満席になるほど賑わう酒場があります。中央に「世界長」の菰樽をもした額が風格を感じます。阪神淡路大震災で惜しまれつつもお酒造りを断念した世界長は、いまは沢の鶴が受け継いでいます。額の文字には今も「世界長酒造株式會社」の文字が残ります。
末廣屋は名古屋を代表する老舗酒場の一つです。建物は新しくなりましたが、いまでも昭和の味わいを残しています。赤ちょうちんに藍色の暖簾。昼間の日差しのなか、ここをくぐるのは実に気持ちがいい。
15時のオープンに合わせて集う常連さんも多く、カウンターはそんな街の主さまたちの特等席です。
大皿に盛られた料理の数々は、大衆酒場でありつつもどこか割烹的な内容で、ある程度のベテラン飲兵衛さんにも安心してすすめられます。カレイの煮付けがちょうど出来上がったところ。
料理は200円から500円がほとんどで、湯引きはもやウニ、蟹の身、蝦蛄などの高級な食材も、ここでは日常価格の酒の肴です。
名古屋はキリンのシェアが強い。名古屋駅からJR東海道線で一駅の場所にある枇杷島駅近くにキリンビールの工場があることもそのひとつだと思いますが、名古屋に飲みに行くと、マーケティング力とかそういうのではなく、街にしっかり根付いているように感じます。キリンラガーがよく似合いますね。
それでは昼酒ラガーに乾杯。
生(IS)は中ジョッキで480円。大瓶(RL)は550円。
ひらめの刺身をつまみに大瓶を傾けていく。外の日差しがやや傾き出すとともに、こちらも飲みのペースが上がっていきます。
刺身は開店直後にはまだ準備ができていないこともありますが、飲んでゆっくり待つのも乙なもので。鮮度抜群でぷりっぷり、これで600円は近くにあれば通うに決まっています。ツマではなく、千切りキャベツがつくのが伝統。刺身は、かなり大盛りででてくるまぐろも人気です。
伊勢湾はタコがよくとれるといいますが、たしかに名古屋や四日市ではタコ料理が刺身以外にも必ずといっていいほど入っています。足長タコ煮は、ふっくら柔らかく甘い味。ビールもいいし、日本酒にももちろんよく合います。
穴子煮(250円)は、細かく切られていて量もそこそこ。これをちびちびつまみ、その度に日本酒のお燗をきゅっと喉を通していく。これだけで何杯でも飲めてしまう一品です。ちょっと山葵を載せて風味を変えてみたり、これだけでいいかも。
いや、取材だからこれで終えたらよくないです(笑)
大皿に盛られているものをすーっと見渡して、これが食べたいという注文をするのも魅力の一つ。ゆで豚のポン酢味をつまみに、ビールをもう一本。
時間が経つにつれて、店はいい感じの常連さんでカウンターが埋まり、残りのテーブルも酒場が好きそうな顔ぶれでいっぱいになりました。賑わっていても店員さんの対応は親切丁寧で、この価格で食べさせてもらっているのに申し訳ないと思えるほど。
近隣に酒場がさほど密集はしていないので、早い時間は唯一のオアシスです。そんな場所で美味しいおつまみに優しい接客をされてしまったら、もう帰りたくなくなります。
飴色の酒場空間に昔ながらの赤と黄色のキリンカラーの大瓶が似合うし、かっこいい。
平日は水曜定休ですのでご注意いただき、ぜひとも名古屋で飲まれる際は一軒目に選んでいただきたい名店です。昭和酒場の敷居の高さを感じるかもしれませんが、ここならば大丈夫。はじめての人も自信を持って暖簾をくくぐってみてください。
由緒正しき飲み屋に浸る時間がとっても心地良い。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/キリンビールマーケティング株式会社)
大衆居酒屋 末廣屋
052-241-8281
愛知県名古屋市中区大須3-16-4
15:00~21:00 (水日祝定休)
予算2,000円