大正2年から続く甲府の100年食堂『稲荷家』朝から絶品モツ皿と湯呑みぶどう酒で乾杯

大正2年から続く甲府の100年食堂『稲荷家』朝から絶品モツ皿と湯呑みぶどう酒で乾杯

JR甲府駅の南口近くにある『稲荷家』は、なんと大正2年の創業。甲府の変遷を見守り続けてきた老舗の大衆食堂です。開店は早く朝7時半から通し営業をしており、地元の人々の朝食から夜の晩酌までを支える頼もしい存在。朝から名物のもつ煮をつまみに、一升瓶から注がれる湯呑みぶどう酒を楽しんできました。

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昔はどの主要駅にもあった駅前食堂

蒸気機関車が鉄道の主役だった時代は、いまよりも旅の歩みはゆったりとしていて、機関車の付け替えや給水のため主要駅では長時間停車が当たり前でした。喉が渇くのは機関車だけではない。旅客や鉄道マンもお腹を空かせて列車から降りてきます。

そんな汽車旅とともにあったのが、全国の主要駅の駅前にあった「駅前食堂」。汽車が電車になり、新幹線へと姿を変えていく中、いまも地方都市では見かけることがあります。今回ご紹介する『稲荷家』もそのひとつ。

JR甲府駅南口から西へ約200メートル。暖簾を掲げたレトロな建物が現れます真新しいマンションの向かいにありますが、1980年代の航空写真をみると、店の目の前が国鉄の貨物ホームだったようです。

大正2年(1913年)創業の『稲荷家』は、1世紀以上にわたり、そんな甲府駅の変化を見守ってきた老舗。店内はテーブル席と小上がりが配置され、壁を覆う手書きの短冊メニューが昭和の風情を色濃く残しています。

80代のご夫婦が店を切り盛りし、職人気質のご主人と話好きで明るい女将さんの温かな接客に惹かれ、親子三代で足を運ぶ常連さんも多いそう。朝7時半から夜8時半まで中休みなしで営業しており、夜勤明けの鉄道マンや農作業に向かう人々の胃袋を支えてきた歴史を持ちます。

朝8時半に訪ねると、ワイシャツ姿の会社員や観光業の人々が朝食のために次々とやってきました。近年は朝飲みの聖地として、遠方から足を運ぶ人も目立つようになりました。

テレビの音もない静寂の中、昔ながらの空間でゆったりと流れる時間を満喫するのが粋な過ごし方。地域に根ざした交流の場として、甲府の日常を肌で感じられます。

湯呑みぶどう酒と馬もつ煮が織りなす郷土の味覚

席に着くと急須でお茶が出されます。まずは山梨ならではの「ぶどう酒」を注文しました。一升瓶から厚手の湯呑みになみなみと注がれるのが甲州流。

ここではよりたくさん入るコップがセットされています。手の体温が伝わりにくい湯呑みはワインにもちょうどいい。気取らずに果実味と酸味を堪能できます。

肴には名物の「もつ皿(500円)」を選びました。甲州の郷土料理といえばモツ。豚のシロモツだけでなく、鶏や馬モツも日常的に食べられています。

モツを生から3時間以上煮込むのだそうで、特有の匂いはきれいに抜けています。肉厚で強い旨味があり、滑らかな舌触りが特長的。

甘辛い味噌仕立ての濃厚な味わいと、ぶどう酒の爽やかな酸味が重なり合い、朝から実に幸せな気分に。お酒好きが感じる旅情ってこういうことなのだと思います。一緒に出される自家栽培野菜の煮物も家庭的な優しい味付け。

山の恵みが詰まった一杯で締める

締めには「山菜そば」をいただきます。

険しい山々に囲まれた内陸の盆地では、古くからワラビやゼンマイを保存食として重宝してきました。

関東風の濃いめの醤油つゆに鰹出汁がしっかりと効いており、山の香りをまとった山菜と蕎麦を一緒に啜ると、心地よいほろ苦さが広がります。動物性の脂をさっぱりと洗い流し、味覚をきれいに整えてくれる一杯でした。

甲府の日常と歴史を味わう至福の時間

創業から1世紀を越える『稲荷家』は、単なる老舗食堂の枠を超え、甲府の食文化と人々の昔の生活リズムを今に伝える存在。もつ煮と湯呑みぶどう酒の組み合わせや、山の風土を味わう山菜そばには、この土地ならではの知恵が凝縮されています。

朝からぶどう酒や日本酒を飲んでいく旅行者も多いのだそう。女性のお一人様も増えてきて女将さんは嬉しいと話されていました。勇気をもって覗いてみませんか。

店名稲荷家
住所山梨県甲府市丸の内2丁目9−1
営業時間7時30分~20時30分
日祝定休
創業1913年