入谷駅すぐ、1965年から続く『喫茶トロント』。ハンバーグを載せた特製ピラフやナポリタンなど食事も人気ですが、ここはやっぱり自家製プリンでしょう。ホイップをたっぷりと載せた姿は特別。まるで喫茶店ライターのような入り出しですが、私は酒場案内人。もちろん『トロント』でも飲みます。昼飲みです。
60年の歴史が醸す、家族経営の下町喫茶

上野と浅草、二大観光地に挟まれた入谷は、どこか生活の匂いがする落ち着いた街です。その駅前交差点の一角に、時が止まったような佇まいの『トロント』があります。
創業時から変わらないというレンガ調の外観に誘われて扉を開けると、そこにはゆったりとした昭和の時間が流れています。低い橙色のソファに身を沈めると、いまのカフェにはない目線の高さになり、不思議と心が落ち着きました。

壁一面に施された巨大なレリーフや、使い込まれたテーブル。厨房からは、ハンバーグを焼く音や食器が触れ合う音がリズミカルに響いてきます。お店を切り盛りするのは、創業者のご家族たち。昔ながらの町に密着した喫茶店なんです。
客層もまた、この街の縮図。新聞を広げて余暇を楽しむ年配の常連さん、遅めのランチを頬張る近隣の会社員、そしてSNSを見て訪れたであろう若いカップルや、浅草観光帰りの外国人。それぞれの時間が交差するのに、不思議と喫茶店好き同士の一体感があります。
しかも嬉しいことに、ここはお酒が飲めるんです。
生しぼりサワーと、スプーンを押し返す自家製プリン

定番のビールからワイン、ウイスキーハイボールまで揃いますが、喫茶店である『トロント』らしさを楽しむならば「生しぼりオレンジサワー」(700円)を選んでほしいです。
たっぷりと使用しているから、搾るのにも時間がかかる。提供スピード重視の居酒屋と違い、都度丁寧につくってくれるのは、パフェに似た特別感があります。その間、窓の外を行き交う下町の人々をぼんやりと眺めて待つ。このゆったりとした時間も、喫茶店飲みの醍醐味です。

運ばれてきたグラスは喫茶店らしい丸みを帯びた形状で、中には搾りたての果肉がたっぷり。
一口飲めば、驚くほどジューシー。店で搾ったばかりの果汁と炭酸、甲類焼酎だけのピュアな味わいが身体に染み渡ります。これだけ美味しいならば、メニューにある自家製サングリアも気になるところ。

これに合わせるおつまみは「自家製プリン(ホイップのせ)」(850円)。

甘いものとサワー?と疑問を持つ人もいるでしょう。でも、このプリンはただ甘いだけではありません。

スプーンを差し込むと、指先にグッと確かな抵抗を感じます。これです、この硬さ。昨今のとろけるプリンとは対極にある、昭和の「焼きプリン」。幼い頃に食べた思い出が甦ります。

口に運べば、プルンと弾みながらも、舌の上で卵の風味が濃厚に広がり、体温で温まるのに合わせて、ゆっくりと溶けていく。そこに、タワーのように盛られたコクのあるホイップと、キリッと苦いカラメルソースが絡み合う。久しぶりです、この感覚。

プリンの濃厚な卵感と脂分を、フレッシュなオレンジサワーがさらりと流し、口の中をリセットする。そしてまた、濃厚なひとくちが欲しくなる。
ナポリタンやカレーと合わせるお酒も魅力的ですが、今日はこの「硬派なプリン」をつまみに、ゆったりとグラスを傾けるのが正解でした。
下町入谷で心をほどく

固いプリンと、生搾りのサワー。頭を空っぽにして脳を休ませる、心地良いひとときでした。
入谷駅から徒歩1分。通し営業なので、遅い昼食や、ちょっとした休憩がてらの昼飲みにも利用できます。上野や浅草の喧騒から少し離れて、自分自身をチューニングする時間を過ごしてみてはいかがでしょう。
店舗詳細

| 店名 | トロント |
| 住所 | 東京都台東区入谷1丁目6−16 松田ビル |
| 営業時間 | 10時00分~20時00分 日定休 |
| 創業 | 1965年 |
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