「東京で美味しい穴子寿司は?」と聞けば、必ず名前が挙がる谷中の名店『すし乃池』。お寺が多く、どこか懐かしい空気が流れるこの町に溶け込むように佇む一軒ですが、その味はまさに伝説級。口の中でふわっととろける名代の穴子を求め、今日も人々が暖簾をくぐります。
手土産需要がある寺町ならではの人気店

初代は実は元国鉄マン。鉄道から食の世界へ移り、日本橋の名門『吉野鮨本店』で腕を磨き、1965年(昭和40年)、ここ谷中に店を開いたそうです。
寺町である谷中では、お墓参りの客が寿司を土産にする文化が根付いています。日持ちのする煮穴子は折詰にうってつけ。「あそこの穴子は格別だ」という評判は、インターネットが存在しない時代に、人々の手土産から口コミで静かに広まったそうです。
街の皆さんとの繋がりを大切にされていたそうで、世代が変わった現在もそれは変わりません。L字カウンターには近隣でご商売をされる方、ご隠居さん、会社員さんが集い、古き良き時代の町寿司の活気が今も感じられます。
遠方からのファンも多く、この日、私の隣はスイス・ジュネーブからのお客さんでした。
職人技が光る江戸前握り

席に着き、まずは瓶ビール(サッポロラガービール)で喉を潤します。先付は穴子の煮凝り。その美味しさに、続く握りへの期待が高まります。

注文は、もちろん穴子が3貫入った「特上にぎり」。主役の穴子を箸でそっとつまみ、口へ運ぶと…これは衝撃です。ふわっとした身が舌の上でほどけ、寿司飯と共にすっと消えていくよう。噂に違わぬ「とける穴子寿司」です。これぞ職人技。

醤油を使わずに酒とみりんでふっくら煮た後、火を止めて煮汁の中でじっくり冷ます。こうすることで、旨味を芯まで染み渡らせトロトロの食感をつくりだせるのだそう。
創業以来継ぎ足してきたタレ「ツメ」は上品な甘さ。それを受け止めるシャリは、砂糖を使わず赤酢と塩のみでキリッと仕上げています。この甘さと塩気の絶妙なバランスが、穴子の風味を最大限に引き立てます。

穴子以外も主役級。蒸し車海老、中トロ、カンパチ、どれも丁寧な仕事が感じられます。

「美味しいのでもう少し」と握ってもらった、〆具合が絶妙な「コハダ」や、蝦蛄も実にいい味。1カン単位で構いませんよというのも嬉しいです。

灘の銘酒「白鷹」の燗酒が、江戸前の仕事によく合います。
実直な老舗寿司ならではの落ち着きが心地いい
半世紀以上にわたり、谷中の地で愛され続ける『すし乃池』。ここは、ただ寿司を食べるだけの場所ではありません。客が好みを伝えながら一貫ずつ注文する昔ながらの流儀を大切にし、付け台奥に立つご主人との会話を楽しむ温かい時間が流れています。
夜は予約をしてゆっくりと過ごすのがおすすめです。店の原点であるお土産として持ち帰るのも良いでしょう。
谷中散策の際には、ぜひこの伝説の味を体験してみてはいかがでしょう。
店舗詳細


店名 | すし 乃池 |
住所 | 東京都台東区谷中3丁目2−3 |
営業時間 | 11時30分~13時30分 17時00分~20時30分 火・水定休 |
創業 | 1965年 |