上野広小路の路地で、凛とした空気をまとって佇む天ぷらの名店『天寿ゞ(てんすず)』。創業は1928年(昭和3年)、まもなく100年を迎える老舗です。ミシュランガイドのビブグルマンにも掲載される実力派の味を、お昼からお酒とともに楽しめます。職人技を眺めながら、東京の粋が詰まった天丼で贅沢なひとときを過ごしませんか。
再開発が進む街に佇む、三代続く江戸前の心

アメヤ横丁の賑わいや美術館の集まる公園口とは少し違う顔を持つ、上野広小路から湯島へ抜ける歓楽街エリア。夜はネオンが光る一画ですが、『天寿ゞ』はそんな喧騒とは別世界。創業は日本初の地下鉄が上野に開通した年。近代化していく東京の活気とともに歴史を重ねてきました。

暖簾をくぐると、そこは明るく清潔で、落ち着いた日本料理店の風情が広がります。お店を守るのは「上野っ子」三代というご主人。その実直な仕事ぶりを間近に眺められる、総檜の一枚板でつくるカウンターの席は、まさに特等席です。

店内にはテーブル席や座敷もあり、休日にはお昼から会食や宴会を楽しむ常連さんの和やかな声が聞こえてきます。
袴付きの瓶ビールで、粋な昼飲み時間を

まずは瓶ビールをお願いしました。銘柄はサッポロ黒ラベル(770円)をチョイス。受け皿である袴に載せて供される瓶ビールは、老舗ならではの上品さが感じられて素敵です。
品書きに目を移せば、お酒の充実ぶりに驚きます。瓶ビールは他にもアサヒスーパードライ、キリンクラシックラガー、サッポロヱビスと揃い、日本酒は定番の菊正宗から選りすぐりの地酒、さらにはワインまで。昼間から4合瓶を囲むお客さんの姿もあり、思い思いに食事とお酒を楽しんでいます。
それでは、乾杯!
素材と技が凝縮された「特上天丼」

刺身などの一品料理や本格的なコースも魅力的ですが、気軽に『天寿ゞ』の真髄に触れるならば天丼がおすすめです。今回は奮発して「特上天丼」(2,860円)を注文しました。
注文を受けてから、ご主人が一つひとつ丁寧に天種に衣をつけ、揚げ鍋へと投じていきます。ごま油の香ばしい香りと、パチパチと衣が爆ぜる音が食欲をそそります。この待ち時間もご馳走のひとつです。

しばらくして、お椀と香の物とともに天丼が運ばれてきました。浅草や日本橋の天丼と聞いて思い浮かべる黒いタレではなく、透き通るような黄金色に輝いています。
甘さを控えた、さらりとした口当たり。醤油と出汁の風味が活きており、主役である天ぷらの味を少しも邪魔しません。

天種は、豊洲から仕入れたという大ぶりの車海老に、穴子やめこちといった江戸前の魚、そしてししとうなどの季節野菜。どれも素材の持ち味が最大限に引き出されています。特に注目したいのが、海老のかき揚げです。小さな芝海老一尾一尾のプリプリとした食感がしっかりと残っており、ご主人の高い技術がうかがえます。
そして、この一杯をどっしりと支えているのがご飯。農家から直接仕入れるというコシヒカリは、ツヤツヤで程よい硬さ。天ぷらとタレの旨みを余すことなく受け止めてくれます。
三代にわたり受け継がれてきた「生ものしか揚げない」という実直なこだわりと、それを形にする確かな技。軽く上品な天ぷらは、ビールとの相性も抜群です。
贅沢な時間が流れる上野の名店
創業からまもなく一世紀。上野の地で、変わらぬ味と暖簾を守り続ける『天寿ゞ』。職人の技が光る正統派の天ぷらを、気取らない雰囲気で味わえる貴重な一軒です。
観光で東京を訪れた方はもちろん、地元の人々にも愛される名店で、少し贅沢な昼下がりを過ごしてみてはいかがでしょうか。
店舗詳細

店名 | 天寿々 |
住所 | 東京都台東区上野2丁目6−7 |
営業時間 | 11時00分~14時30分 16時30分~21時00分 水定休 |
創業 | 1928年 |