松山市「赤丹本店」 市駅前で86年。女将さんが守る名店の味に舌鼓


老舗酒場のカウンターというのはなぜここまで心地よいのでしょう。店の作りなど物理的なものではなく、精神的な魅力を感じます。安心感、という言葉だけでは括れない座った者だけがわかる価値がそこにあります。

愛媛県の県庁所在地・松山市の中心部で1931年(昭和6年)創業のおでんの名店「赤丹」のカウンターはまさにそれです。あぁ、赤丹で飲みたい。そうとなれば、もう行くしかない。

 

広島と松山は瀬戸内海を挟んで向き合っています。瀬戸内しまなみ海道が尾道と今治の間を道路で結んでいますが、実は航路のほうが早い。広島で朝酒を楽しんだあと、広島港から松山観光港へ瀬戸内海汽船の高速船「スーパージェット」で最短68分。ね、これなら梯子できるでしょ。

 

松山観光港と市中心部は地元の私鉄・伊予鉄道高浜線が結んでいます。

 

松山観光港最寄りの高浜駅から中心街の松山市駅までは9駅。高島屋を含む地方私鉄とは思えないほど立派な駅舎が松山市駅です。JRの駅はこことは別で、そちら側の賑わいは今ひとつ。街の中心は地元の人達が呼ぶ「市駅」周辺です。

 

“市駅”前のロータリーで店を構える「赤丹本店」。はるばる瀬戸内海をこえて来ただけにカウンターに座った感動はなおのことよし。

女将さんが守り続けるおでん鍋から立ち上る水蒸気と美味しい香りにもうメロメロです。

 

行灯に光が灯るのは周囲のどの酒場よりも早く14時30分。待っていましたとばかりに、地元のご隠居さんやいよてつ高島屋で買い物帰りの奥さんなど常連さんが集まってきます。

お、平日の昼間から飲めるなんていいね!と常連さん。いやいや、お兄さんも素敵です。

 

女将さんと息子さん夫婦で切り盛りする家族経営のほっこりとした雰囲気。包丁を握る息子さんの目利きで仕入れた今日の魚がホワイトボードに書き足されていきます。もちろん、近海物の瀬戸内の幸なのは言うまでもありません。

 

さて、まずどうしましょう。瓶ビールにしましょうか。大瓶650円で岡山工場づくりの一番搾りをトトと注ぎ、乾杯!

 

女将さんがおでん鍋の前で赤いお椀を持って注文を聞きます。まずは着席と同時にお通しのようにおでんを頼むのがここの流れ。つぶ貝と大根をもらって、ゆるい辛子味噌がたっぷり添えられます。

 

さほど辛くはないのでご安心を。出汁と混ざってとろっとした風味と締りのある味になり、これが絶品です。

 

揚げ物も入るおでん鍋ですが油やアクは一切なく、濁りのない琥珀色。底の具材まで見通せます。松山はじゃこ天が郷土料理なので、おでん種の注文にじゃこ天が常連さんの定番。海産物中心のおでんが嬉しく、つぶ貝もぷりぷりとして磯の香りがたまりません。

 

品書きには値段は載っていません。ですが心配はご無用。普通に飲んで食べて3千円で十分満足できますから。「今日は品書き書くのが追いついていなくて」と大将。

お刺身は常時8種類ほど。天ぷら、焼き物、煮魚にカキフライなども加わります。地元で「ホータレ」の名で親しまれているセグロイワシのお刺身や干し物も絶品です。

場所柄、下関も近くとらふぐなんてものもあります。さすがにこれはちょっぴり高くなりそうですが。

 

「穴子はどうでしょう」とおすすめいただいた地物の穴子。シンプルに白焼きでいただきます。箸休めにつくアサリも素敵です。くしゅくしゅとした細かな身と、ふわふわな食感。わさびと醤油は風味付け程度に。

 

浅い泥に生息するモエビは四国の郷土食材。こちらでは「ヨリエビ」と呼ばれピチピチのものを唐揚げにすると美味。殻が柔らかく頭からまるごと食べられ、カリカリのエビ特有の風味と身の甘さが混ざり合う逸品です。

こうなると日本酒が欲しくなります。

 

お酒は袖看板にも書かれているとおり「大関」です。おでん鍋と一体化している燗つけ器。女将さんの慣れた手つきで酒たんぽを入れて絶妙な温度につけてくれます。

やはり老舗のカウンターは素晴らしい。常連さんやお店の皆さんとの世間話にも花がさき、気がつけばいい時間。梯子癖があるのにすっかり椅子に根をはってしまいました。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

赤丹 本店
089-946-1222
愛媛県松山市湊町5-5-10
14:30~15:00頃開店~21:00(日休)
予算2,800円(おでん150円程度、海鮮料理1.000円ほど)



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