朝5時から飲める!大田市場で大衆食堂を営む『三洋』は、かつて秋葉原にあった神田市場から続く老舗です。市場仕入れの鮮度が良い刺身をつかった定食や丼ぶりが人気。利用者のほとんどが市場関係者のため、市場の雰囲気が味わえるのも楽しみのひとつ。
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都営バス「品98」にゆられて、非日常へ飲みに行く
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2018年に豊洲へ移転した東京都中央卸売市場 旧築地市場は、市場関係者だけでなく、近隣住民や会社員も場内の食堂を利用し大いに賑わっていました。なかには新橋・銀座で朝まで飲んではしごしてくるようなツワモノも。旧築地市場に限らず、市場内の食堂は一般開放されており(※一部例外あり)、早朝から本格的な食事が楽しるスポットです。特長はなんといっても、仲卸しや出入り業者など、食のプロを唸らせる鮮度抜群の食材をつかった料理の数々でしょう。
加えて、普段はなかなか立ち入る機会がない市場の雰囲気を知ることができる、希少なスポットという側面もあります。
さて、東京中央卸売市場は、築地市場が移転した先の豊洲だけでなく、都内に9つの市場があり、首都圏の食卓や飲食店の仕入れを支えています。
豊洲はもちろん楽しいですが、豊洲以外も訪ねてみませんか?
ということで、今回ご紹介するの東京都中央卸売市場大田市場。1989年(平成元年)に秋葉原の旧神田市場、五反田の旧荏原市場(蒲田分場)を、平和島の旧大森市場と一体化して開設さた、比較的新しい施設です。
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「やっちゃ場」(青果)のイメージが強いですが、水産物や花きも扱う総合市場です。
大田市場が開設される以前は、秋葉原駅に隣接する神田市場が東京を代表する青果市場のひとつでした。神田市場の歴史は遡ること350年。1657年(明暦3年)、4代将軍・徳川家綱の時代に設けられたことがはじまりです。数世紀にわたって神田・秋葉原で野菜や果物の取引が行われてきましたが、物流が神田川を利用した水運や貨物列車からトラックへシフトしたことなどから移転となりました。
秋葉原に市場があったことや、その後しばらく空き地となり、秋葉原UDXが建設された光景を覚えている人は多いでしょう。
移転では卸し業者だけでなく、関連する乾物や容器、食堂なども一緒に大田市場へ「引っ越し」となりました。それが、今回ご紹介する『三洋食堂』などです。
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「大田市場」というだけに大田区にありますが、アクセスは品川駅からが都営バスが便利です。港南口から大田市場を30分で結ぶ品98系統は、20分間隔で運行しています。しかも、バスがそのまま市場内へ乗り入れ、場内をぐるっと巡回します。
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市場内にバスが直接乗り入れるなんて、昔の築地市場みたいですね。写真は2018年の築地市場。
大田市場関連棟を探検しよう!
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早朝の品川駅を、通勤客に混ざって都営バス品98系統に乗車。バスは東京港大井コンテナふ頭と巨大倉庫群の中を南へ進みます。生まれ育った東京ですが、めったに見ることがない景色が続きます。終点の「大田市場」バス停は市場の奥にあるので、ひとつ手前の「水産棟」バス停で下車。水産棟、青果棟に挟まれた場所に関連棟があり、ここは一般の人も立ち入りが可能です。
なお、場内はターレットトラックやフォークリフトが忙しく動いていますので、くれぐれも気をつけて。
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関連棟には、寿司、蕎麦、天ぷら、ラーメン店などが集まり、ちょっとしたレストラン街のよう。卸売・仲卸あわせ200以上の業者と、関連83業者(東京都発表令和2年4月1日現在)に勤める人々の胃袋を支えています。
市場の活気と人情を感じる三洋食堂
外観
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三洋食堂は、先にご紹介しましたとおり、神田市場とともに大田へ移転してきた事業者のひとつ。1950年に秋葉原で市場関係者向けの職域食堂として営業し、1989年からは現在の場所で商売をされています。
お店は2階建てで、1階はU字型のカウンター席、2階はテーブル席です。市場稼働日は朝5時から営業する、まさに市場時間のお店です。
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決まったメニューはなく、店先に掲げられた張り紙や、鮮魚用発泡スチロールの蓋をつかった品書きが今日の献立です。
品書き
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人気は大エビフライとマグロ刺身A定食:1,050円や、生ホタテ貝柱フライ3個と大エビフライ2本の定食:1,500円など。
単品は、マグロ刺身:500円、ねぎとろ:400円、しらす:400円、アジフライ:400円など。
ビールはキリンクラシックラガー中瓶:600円。
内観
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簡素で効率的。U字型のカウンター席に、ジャンパー・長靴姿の市場関係者が忙しそうに食事をしていく店内。仕事終わりなのでしょう、普段着で瓶ビールを傾ける人の姿も。市場特有の独特な朝食風景はいつみても爽やかでいいものです。
いろんな市場の食堂を訪ねていますが、三洋食堂ほど関係者率が高い店はそうありません。
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店を切り盛りするのは女将さんを中心としたご家族の皆さん。女将さんは秋葉原時代からやっちゃ場をみてきた方で、秋葉原時代の思い出を話してくれました。忙しいとお話はできないと思いますが、終始和やかな雰囲気で、チャーミングなお母さんに癒やされます。
乾杯はキリンクラシックラガー(600円)で
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下町の市場の流れを汲む場所だからか、ちゃきちゃきで提供が驚くほどスピーディー。瓶ビールをと一緒に注文した丼ぶりもでてきました。まずはビールで乾杯。
いくら&ネギトロ2色丼大エビフライ付き(1,500円)
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朝から豪勢です。海鮮丼にエビフライ、お味噌汁や小鉢つき。思わず、「へへっ」って声に出そう。
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女将さんによれば、マグロすき身にこだわりあり。実際に食べてみると、これが驚くほどコクがあって美味しいです。比較的安価な食材のイメージがあるネギトロですが、そのランクには大きく幅があるのだそう。もちろん、いくらも含め、大田市場で仕入れたばかりのもの。
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しかも、具の比率は巷のそれとは大違い。具だくさんですから、当然ビールも進みます。
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大きくてぷりっぷり。エビフライは多くの定食につく定番の一皿です。食べごたえがあって大満足です。
日本酒が合わせたくなるかもしれませんが、取り扱うお酒はキリンクラシックラガービールのみ。朝から1・2本飲んでほろ酔い、いい気分。いつもの東京も、市場で飲むと別世界に思います。
市場酒、ぜひお試しください。ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 大田市場三洋食堂 |
住所 | 東京都大田区東海3-2-7 |
営業時間 | 営業時間 5:00~14:00(L.O.13:30) 定休日 日曜日、祝日 |
開業年 | 1950年 |