渋谷には、大正3年に創業したという百年続く中華料理店があります。店の名は「精陽軒」。高級中国料理店を思わせる堂々とした店構えではあるものの、そこは親しみやすい優しい街中華。麺飯類が有名ですが、夜のお得な「寄り道セット」こそ体験してほしい、飲める中華です。
洋食店として創業、昭和42年に中華へ転身
JR渋谷駅から宮益坂を登って5分ほど。青山学院大学近くの雑居ビルが立ち並ぶエリアに精陽軒はあります。石造り調の戸建ての店舗は、周囲のビル群と比べ明らかに雰囲気が異なります。都心でこうしたつくりの店は今後ますます貴重になるに違いありません。
東京は老舗が多く残る街ですが、渋谷で100年続く飲食店は数えるほどしかありません。本日ご紹介する精陽軒の創業は1世紀前の1914年。当初は青山通りに面した場所で、洋食店「セイヨウケン」として営業していました。その後、移転、1967年頃より中華主体にスタイルを変えて今に至ります。現在の女将さんで3代目です。
青山学院大学からは徒歩1分ほど。学生時代利用した思い出がある方も多いのではないでしょうか。お店には、卒業生や教授風の常連さんも多いです。
外観の重厚感とはことなり、店内は明るく清潔、現代風の雰囲気です。一人客はL字のカウンター席、二人以上はテーブル。二階では宴会も可能です。渋谷という巨大ターミナルが最寄りではあるものの、お客さんはご近所にお住まいの方や、職場帰りの人が多く、地域に根ざしたあったかいムードです。
ピカピカのサーバーからピカピカのビールを。品書きを眺めるのはそれからです。それでは乾杯!
品書き
飲み物
ビールはアサヒ。大樽はアサヒスーパードライ(中500円)、瓶はアサヒプレミアム生ビール熟撰(中びん750円)。ドラゴンハイボール、純米ハイボール、カリフォルニアハイボール(各450円)と、個性派ハイボールが3種類。夜はボトルキープしている常連さんが多いです。
サワー類、ワイン、カクテルとお酒のラインナップは非常に充実しています。そう、ここは飲んでいい中華、いえ、飲むべき中華なのです。
まずはセットで始めよう
生ビールと餃子5個がついて750円、ハイボールならば650円になるお得なセット。中華で頼む定番の組み合わせがサービス価格なのは嬉しいです。
もう少しつまむならば「寄り道コース」も。飲み物に餃子、さらにおつまみ1品ついて1,000円。ハイボール2杯ならば1,100円。ちょっと”寄り道”のつもりならば、これで完結できる内容です。おつまみは、雲白肉、中華サラダ、オニオンガーリックウインナーなど。
店構え、店の歴史、立地などを考えると高級な店ではないかと身構えそうなのですが、青学の学生でも安心して利用できる良心価格。サービス満点です。半チャーハン+ラーメンで850円。
単品メニューから洋食店の名残を探す
やはり全体的に一回りリーズナブル。中華店の大皿料理も一通り揃うものの、どれも千円以下。店の背景も美味しさのエッセンス、ここはオムライスに中華餡をかけた中華風オムライス(950円)も試してみたいところ。
一人なら、小皿いろいろいい気分
ミニばんばん豆腐(400円)
中華飲みは、蕎麦前と違ってどれもボリューム満点ですから、あっという間に満腹になる…、いろいろちびりと摘めたらいいのに。そんな気持ちに応えてくれるのが精陽軒の夜の部料理。17:30からは、揚げワンタン(500円)や腸詰め(500円)、ミミガーピリ辛和え(500円)などミニサイズのおつまみが加わります。
そのひとつが、このミニばんばん豆腐。日本人好みだけどちゃんと本格的。濃い味がビールを進ませます。
餃子
寄り道コースの餃子(単品ならば5個400円)。きつね色の部分のパリパリ具合ともちっとした皮、野菜たっぷりのしっとりとした餡。バランスが良く、整った上品な味です。
ハイボール
キンキンに冷えた竹鶴のタンブラーで登場、ニッカハイボール。
雲白肉
ニンニクが効いた辛く深いコクがあるタレをかけた、雲白肉。下味がついたしっとりとした豚は、肩肉でしょうか。脂が多いものの、タレとの相性がよく非常に軽い印象です。
コンパクトなおつまみを少しずつ摘んでは、のんびりとビールを口へ運ぶ。穏やかな時間がいいものです。渋谷でふらっと一人飲みで立ち寄れる老舗中華の精陽軒。有名店ですが、飲み処という括りでは隠れた名店だと思います。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)